第104話 必死の帰省
「……えっと……つまり……ミラの故郷に戻って、姉妹で仲良くしたい、ということですか?」
俺は思わず今までの話をミラに確認してしまう。ミラは笑顔で大きく頷いた。
「そうなんだよ~。いや~、勇者サマとお姉さんのこと見てたら、やっぱり姉妹っていいなぁ、って思っちゃってさ~」
ミラは笑顔でそう言っているが……隣に座っているキリは完全に仏頂面である。
「それで……キリさんも一緒に連れて行きたいってことですか?」
「そうなんだよ~。キリちゃんもそれでいいよね?」
ミラが笑顔でキリに確認する。しかし、キリは仏頂面のままでミラを見ている。
「……えぇ。いいんじゃないですか。姉様がそうしたいのなら。どうせ、私の意見なんて聞かないんでしょう?」
そう言われてしまうとさすがのミラも何も言えなくなってしまうようだった。俺は今一度ミラの方を見る。
「えっと……ミラ。ちょっと……俺とキリの二人で話してもいいですか?」
「え? 二人って……何? ウチは?」
俺は苦笑いしながら首を横にふる。と、ミラは少し不満そうだったが、そのまま席を立ち、集会所の入口に行ってしまった。
「えっと……その……キリさん?」
「……キリでいいですよ。アスト」
キリはまるで手負いの魔物のように警戒心マックスの視線を俺に向けてくる。俺はとりあえず笑顔でキリに接することにした。
「キリは……ミラと一緒に故郷に戻りたいんですか?」
「……戻りたいわけないでしょう」
小さくため息を付きながらキリは俺のことを睨んでそう言う。
「それは……ミラが怖いというか……一緒にいるのが嫌なんですか?」
「……確かにそれもあります。ですが……私は、故郷に戻ることのほうが怖いですね」
「故郷が怖いと言うと……それは……」
「……えぇ。本当に怖いのは大姉さま……私達三姉妹の長女ですよ」
キリはそう言うと視線を床に落とす。と、心做しかキリの顔色は悪くなっているようだった。
「……むしろ、ミラ姉様が一体どういうつもりで故郷に戻りたいなんて言っているのか……私には理解できません」
「理解できないというと……それは……」
「……私もミラ姉様も家出同然に故郷を飛び出して来ています。おそらくそれを大姉さまは今でも怒っているはずです。そして……許していないと思います」
「その大姉様は……そんなに怖い人なのですか?」
俺がそう言うとキリは今一度俺のことをその二つの目でジッと見る。
「……最初にはっきり言っておきます。アスト……もし、アナタが私達に付いてくるならば……命の保障はできません。大姉様は私やミラ姉様とは違い、今でも現役の暗殺者……凄腕の暗殺者です」
「えっと……つまり、今までの話を総合すると……ミラの言っているとおりにミラの故郷に戻るとすると……」
「……ええ。確実に私達は……殺されるでしょうね」
キリのその言葉に、俺は引きつった笑みを浮かべることしかできないのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます