第88話 氷上の戦い
「……えっと、本気なんですよね?」
思わず俺は今一度確認してしまった。しかし、ラティアは先程までリアに対して向けていた表情とはまるで違う冷たい表情をしている。
「当然だ。リアとも話し合っている」
「リアと……?」
俺はリアの方を見る。リアは申し訳無さそうに俺に対して頭を下げる。
あの感じだと……ラティアはまるで譲る気はないのだろう。そして、リアでさえも、一度ラティアがそう決めてしまったら反論できないのだろう……
「……そうなると……やらないといけないってことですか」
俺は転生の腕輪に祈りを込める。腕輪がかすかに輝き出した。
「ふっ……やる気のようだな。お前達……これからここは戦場になるが、出ていかなくて良いのか?」
と、ラティアは先程から俺達のことを見ているミラとメル、そして、リアに問いかける。しかし、三人とも出ていく気はないようだった。
「……そうか。それならば……さっそく始めるとしようか」
そう言って、ラティアは氷の剣を構える。俺も腰元から剣を引き抜いた。
「では……まずはこちらから行くぞ」
と、ラティアがそう言うと同時に、いきなり部屋中に吹雪が吹き始めた。
「うおっ……? な、なんだ……」
一気に視界がホワイトアウトする。目を開けていることもできないくらいだった。
「アスト!」
と、リアの声が聞こえる。瞬間、微かにだか、こちらに向かってくる人影……
ガキン、と金属的な音がする。
「ほぉ……リアが叫んだとはいえ、我の一撃を受け止めるとはな」
すでに俺の直ぐ側までラティアが距離を詰めており、氷の剣を振り下ろしていた。ギリギリのところで、俺はその一撃を受け止めたのだった。
それにしても……氷でできているとは思えない程の重量だ。まともに喰らえば一撃で瀕死のダメージだろう。
「しかし……これはどうだ?」
と、吹雪が止んだと思ったと同時に、空中に無数の氷の棘のようなものがいつのまにか浮かんでいる。
「不味い……!」
俺は腕輪に祈りを込める。腕輪の光がより輝くが……
「……串刺しになるがいい。『アイスニードル』」
ラティアの声と共に氷の棘が俺に向かって飛んでくる。この感じだとおそらくこの数を避けきるのは不可能……ならば……!
俺は総ての氷の棘を剣で叩き落とすことにした。おそらく……腕輪への祈りが足りない状態では間違いなく串刺しになっていただろう……ラティアは殺意が高すぎる……!
「……ふぅ。ギリギリでしたね」
俺はなんとか、総ての氷の棘を叩き落とすことができた。といっても、掠り傷が身体にできてしまっていたが……串刺しにならなかっただけマシである。
「なっ……お、お前……!」
俺の目の前には目を丸くして俺のことを見るラティアが立っていた。おそらく……今の氷魔法で決着が着いたと思っていたのだろう。
まぁ、実際、俺じゃなかったら……普通は戦いは終わっていただろうし……
「……えっと、これで、終わりですかね? さすがにこれ以上は――」
「なぜ……いる……?」
「え? ら、ラティアさん?」
「なぜ……立っているのだ……!」
……ラティアの様子が明らかにおかしい。ワナワナと震えながら俺のことを完全に睨んでいる。その目つきは……俺に対し殺意満載であった時のレイリアと同じものだった。
「……これは不味い……! 姉上、やめてくれ!」
リアが明らかに動揺した様子で叫ぶ。一体何が起こっているのか……と、俺は自分の手元に違和感を覚える。
「……え?」
いつのまにか俺の手のひらは……少しずつ周りの景色と同じように氷始めてしまっていたのだった。
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