第44話 絶望

「な、なんだ、作戦って……」


 戸惑うリアに、俺は耳打ちをする。俺は今自分が考えていることをリアに伝えた。


 俺の言葉を聞くとリアは少し驚いていたが、納得してくたようだった。


「そ、そうか……しかし、上手く行くのか?」


「いえ、これしかありません。とにかく、今言ったことだけ考えて下さい」


 俺がそう言うとリアは深く頷いた。


「作戦会議は終わったかしらぁ?」


 ネクロマンサーが余裕の表情で俺とリアを見ている。俺達は剣を構える。


 ネクロマンサーが合図を送ったようで、それと共に勇者ゾンビと戦士ゾンビが俺達に向かって襲ってきた。


 俺達はその場から動かずに攻撃に備えようとする……そして、ギリギリまでひきつけて二体のゾンビが大きく武器を振りかぶった、その時だった。


「今です!」


 俺とリアは同時のその場から飛び退いた。ゾンビ達は一撃をかわされて動きが止まる。


「リア!」


 俺が叫ぶと同時に二人でそのままネクロマンサーに突っ込んでいく。


 俺の見立ては単純で、ネクロマンサーだけを狙って倒すというものだ。それぞれのゾンビはおそらく倒すのに苦労する……というか、今の俺達ではおそらく倒せない。


 そこで、ゾンビたちを操っているネクロマンサーを先に倒す……それこそが短期決戦の解決策だった。


 俺とリアは一直線にネクロマンサーに向かって突っ込んでいく。リアの方が若干俺よりも先行している感じだった。


 しかし、俺は見てしまった。ネクロマンサーは……嗤っている。明らかに俺達がこの手段に出るとわかっていたという表情だった。


「リア! 止まって!」


 俺が言ったときには遅かった。リアはすでにネクロマンサーに斬りかかろうとしていた。しかし――


「残念……もう遅いわよぉ」


 ネクロマンサーがそう云うと共に、リアの動きが止まってしまった。リア自身も一体何が起こったのかわからないという感じである。


「うふふ……勇者と戦士だけじゃなくて、魔法使いもいること……忘れちゃったのぉ?」


 ネクロマンサーの言う通り、やつの隣で控えていた魔法使いゾンビがなにかの魔法を使ったようだった。


「う、動けないぞ……」


 リアが苦しそうな表情でなんとかそう言葉を絞り出す。


「それはそうよぉ。この子の使う魔法は、私に逆らってきた冒険者がより恐怖を味わえるように、身動きできなくする魔法が中心なの……だから、アナタは当分無防備にそのままよぉ?」


 ネクロマンサーはそう言ってリアの頬を撫でる。リアは恐怖の表情で俺の方を見る。どこかで聞いたことの在るような魔法使いだが……敵になるとそれはもう厄介だな。


「さて……まずはこの勇者さんから、経験値にしてしまおうかしら?」


 それと共に勇者ゾンビと戦士ゾンビがリアの方に向かっていく。あの無防備なリアが斬りかかられれば今度こそ間違いなく……


 俺はメルの方を見る。メルは為す術なく、恐怖の表情で俺を見ていた。


「メルさん!」


 俺は大声で叫ぶ。メルはハッとした表情で俺の方を見る。


「や……やめなさい!」


 メルは俺が何をしようとしているのかわかったようだった。しかし、静止を振り切って俺はリアの方に走る。


 すでにゾンビ達はリアのすぐ側まで来ていた。俺はそのまま全力でリアとゾンビ達の間に滑り込む。


 そして――


「アスト!!!」


 リアの絶叫が響く。なんとか間に合った……そう思うと同時に身体に激痛が走る。


 俺の身体は二体のゾンビの剣戟をモロに食らってしまった。そして、そのまま俺はその場に倒れ込んでしまった。

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