第76話
アーノルドとクリストファーがエクス社の警備にあたる中、アリエルの捜索とアスタゴ合衆国内の治安維持を任されたオリバーは基地の中を歩いていた。
「何か、おかしいよな」
顎を左手の指先で撫で、オリバーは思案顔をしている。
どうにもきな臭い。
ここ最近の世界の動きが言いようのない気味の悪さを感じさせてくる。
オリバーの心の中に違和感として蟠る。正体は分からないが、ただおかしいと思ってしまう。
例えば、アリエルが攫われたという話も余りにも出来すぎていて、元から何者かが彼女を狙っていたと考えるのが自然の様な気もする。
だが、誰が。
どうしてアリエルの居場所を把握できたのか。
どんな必要性があるというのか。
「……いや、流石に」
それはないはずだ。
否定したい。
何故なら彼の考えでいけば、最も怪しい人物はあの男になってしまうから。
「違う、よな……。ファントムだろ。ああ、絶対そうだ」
仲間を疑う事は正しいことか。
きっとこれは自分の弱さだとオリバーは思い込んで自らの推理に蓋をする。
自らが信じたマルコ・スミスが信頼を寄せるオスカー・ハワードという男が、実際害をなす者だと思うことは不徳であると考えたからか。
間接的にマルコを信じないことになってしまうことを心のどこかで恐れたからか。
真実を明かすことはできない。
誰かにとっては下らないことなのかもしれない。
こう考える事もできるだろう。
視野狭窄。
見えなくなっているだけで、答えが狭まっているだけだ。
だから、自分の知っている内で理解できる範囲で物事の正解を突き詰めようとしてしまうと。
「……違う、だろ」
言い聞かせようとしても、疑念は晴れない。どこまで信用して良いのか。オスカーを疑うとして、誰が信じられるのか。
『牙』の中身はどこまで歪んでしまっているのか。
考えたくもないのだから、当然に思考の全てを止めてしまいたい。
着信音が鳴り響く。
表示された名前はオスカー・ハワード。
携帯電話を持つ右手が震える。
息を整えて、二コール目。
「……はい、オリバーです」
いつも通りを装って応答。
『ああ、オリバー。今から地図を送る。目印の場所に至急向かってもらいたいんだ。銃撃事件が起きたようだ』
何の変哲もない、ただ指令が告げられただけ。
「わかりました」
夕日の輝く窓の外を眺めながら、通路の端で携帯電話を右耳に当て。
たった一言了解の言葉を返した。
『呉々も気をつけてくれ。オレも後から救援に向かう』
通話が終わった。
疑わしい点は何もない。
全てはオリバーの杞憂で有ればいい。オスカーは『牙』の副団長というだけの優しい人間で有れば、何の問題も無いのだ。
オリバーが抱いた疑念もきっと狭まった思考から出された間違いだらけの答えだったのだと。
証明して欲しい。
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