第61話
運ばれてきたものに感嘆の声を上げる。
「おお、まともな飯は久しぶりだな……」
白色の食器とフォーク。
白の食器の中にはパスタ。
「このカフェのシェフってマルテアで修行してきたらしいですよ」
だからなんだと言う話で、ユージンは大した反応も見せない。
「…………悪いな奢らせて」
「一文無しに期待なんてしませんよ」
溜息を吐きながらも、早速とトマトソースのパスタにフォークを伸ばす彼を頬杖をつきながらクロエは見つめている。
「それでお手伝いの事ですが……」
切り出した言葉にピタとフォークを止めて皿に向けていた視線を上げて、クロエを視界に入れる。
「おう」
「クローンの事は話しましたよね?」
「ああ、聞いたな」
クローン製造が根本的な問題として関わって来る事は理解できた。
「詳しい説明をしますと。そのクローンは霊長類最強の体細胞から作り上げた至高の存在……となってます」
「あ? 最強?」
「ミカエル・ホワイト、ご存知ですか?」
ユージンの頭の中を占めたのは疑問だ。
何を言っているのか。
「殺されたろ、アイツ」
厳密に言えば殺したのは彼なのだが。
戦場で名前を聞いた訳ではなく、全てが終わった後に耳に入った名前で、自分を手こずらせた相手の名前だから強烈に印象に残っていたのだ。
「その死体からDNA情報やゲノムなんかを抜き取ってですね……」
「ほーん。で、実際に出来たのか?」
あまりにも現実味がない。
そんなものがあるのならクローン兵士を量産して直ぐにでも戦争兵器として活用しているはずだ。
研究がいつに始まったのかは定かではないが、阿賀野の駆け抜けた戦場にそう言った類の存在が居なかったことからも未だ実用段階ではないのだろう。
「出来たには出来たのですが……一つだけで」
「そうか」
やはり、と言うべきか。
「それでですね。実はヴォーリァとの冷戦が終結に向かって動き始めてる事は知っていますか?」
「そりゃあな」
現にユージンが戦役奴隷じみた仕事、役割から解放されたのもヴォーリァ連邦とアスタゴ合衆国との代理戦争のようなものに駆り出される必要がなくなったからだ。
「となれば、兵士クローンは必要ありませんよね? 余計な武力になりますし、そもそも国際法違反ですから」
「まあな」
戦争が起こらないという前提の世界があれば強力な武力を有する必要性はない。
なら、至る結論は一つだ。
「研究の凍結、クローンの処理……ってか」
随分と自分勝手な事だ。
命を勝手に想像して、勝手に殺すなど。
「……そういう事です。なので、貴方にはそのクローンを攫って欲しいんです」
「……クソ厄介な仕事じゃねぇか」
文句を言いながら、彼はフォークに巻きつけたパスタを口に運ぶ。
「まあ、受けるけどよ」
「本当ですか?」
モグモグとパスタをしっかりと咀嚼し飲み込んでから。
「ったりめぇだろ」
肯定を示した。
「言ったろ、仕事は選べねぇ立場だって」
何より、戦争最前線を生き続ける以上にストレスとなる仕事などありもしないだろう。いや、あれは最早ボランティアといった方が正しかっただろうか。
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