第2話
例えばの話だ。
目的地に着いた瞬間に突然、襲われたとして人はどうするのが正解か。
と言うのも、アリエルが目的地であった『
よく訓練された足技が初めの攻撃であった。
それに続く、隙のない追撃。
「ここに来るってことは、『牙』への入隊希望かい!」
「はい、そうですけど……」
「ウチは弱い奴も、女も要らないよ!」
「え、アナタも女ですよね?」
純粋な疑問を覚えたアリエルが目の前に立ち、臨戦態勢で構えを取る女性に尋ねる。
「言い間違えた」
訂正、女性は駆け出してアリエルに殴りかかる。
「もうこれ以上、オスカー副団長を狙う女は必要ないのッ!」
怒りに満ちた一撃。
ただ、この女性の抱くものは筋違いの憤怒だ。話をしようにも言い訳としか捉えられないだろう。
「えと、あの、取り敢えず。私はアリエル・アガターです」
「聞いてない!」
攻撃の嵐が止むことはない。
足技もあるが、基本は殴打。だが、ボクシングとは違う動き。激昂に駆られているからか幾分か、動きは単調だが速度と威力がある。
しかしアリエルにとって、こんな物は些事である。向かってくる右手の手首を掴んで眼前で止める。
「ぐっ……!」
女性は呻くが、
「あの、まず私はオスカー副団長のことを狙っているつもりは、これっぽっちも無いのですが……」
「誰が信じるっての」
「えー……」
手首を握ったままでいると、もう一人の人物が現れた。
「そこまでにするといい。採用かどうかを決めるのはモーガン、キミじゃないだろ」
ポケットに手を突っ込んで深緑色の髪と目をした男が歩いてくる。
「キミは志願者だね」
「あ、はい!」
「取り敢えず、基地内まで付いてくるといい。ボクはフィリップ。フィリップ・ライト。キミが手首を握っている彼女はベル・モーガン」
女性は舌打ちをしてから、握る力の弱まったアリエルの右手を振り解く。
「アタシは認めてないから……!」
「だから、それを決めるのは団長なんだよ。キミのその自分勝手なところ、ボクは『悪』だと思うよ」
蔑む様な冷徹な目でフィリップは仲間であるはずのベルを見た。
「頭を冷やせ。副団長の事になるとキミは暴走しがちだ」
彼らは互いに視線を逸らした。
「あの、仲悪いんですか……?」
「アレの振る舞いのせいだよ」
視線を向けることもなく、フィリップが言い切った。
「……恋とか、そう言うのの類いは人を盲目にするんだ」
「はぁ……?」
アリエルの身体的年齢から考えれば恋の経験の一つや二つはあってもおかしくないのだが、個人によるだろう。
「キミにはまだ分からないのかな? まあ、それは置いておこうか」
基地の扉が開かれ、フィリップに案内をされるままにアリエルはその背中を追いかける。二人の距離は三歩ほど。
「これから、団長に会ってもらう」
案内をされたのはとある扉の前。扉が開けば、中にはプラチナブロンドの髪を短く刈り上げ、整った顎髭を生やした五十代程の筋肉質な男が黒椅子に座っていた。
「──ようこそ、『牙』へ。私が団長のマルコ・スミスだ。まあ、君の入隊はまだ決まっていないがな」
どこか重みのある雰囲気が一室を支配していた。
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