第101話
弾ける。
それは軽快な音ではなく、どこまでも重たげな音をかち鳴らして。
「……クソがっ」
阿賀野の舌打ちがリーゼのコックピット内に響く。
どうにも攻めきれない。
寧ろ、時間が経つほどに阿賀野は不利な状況へと追い込まれていく。弾かれて生まれた距離、即座に詰めようにも、銃弾が放たれ遠回りをせざるを得ない。
阿賀野も中距離砲を撃ち放つが、それでは距離が生まれてしまう。何より、リーゼには大剣と盾を常時、同時展開できないと言う弱点が目立つ。
更に言えば、阿賀野が乗るパッチワークと呼んでも間違いではないリーゼの装甲は元来の物より明らかに薄く、タイタンによるまともな一撃を貰うだけで、機能はほぼ停止状態に追い込まれることだろう。それだけの攻撃力をミカエルは有していた。更には速度もある事がミカエルの操るタイタンの脅威を増幅させる。
阿賀野でなければ。いや、この戦場は、阿賀野であっても、ほぼ確実に攻略不可能なゲームと化していた。
銃弾の速度が速い。
盾にしては間に合わず、有効な攻撃手段がいざと言う時に奪われてしまう。
ミカエルの戦闘技巧の高さ。
だけではない。
反応速度に於いても、阿賀野と同等レベル。機動力でリーゼに劣るタイタンが、リーゼに近しい速度で挙動を取るのは余りにも恐ろしい現実であった。
「本気でヤバいな……」
攻撃を弾く度に火花と、不気味な音がでる。この音が阿賀野を焦らせる。このまま戦い続けると、まず阿賀野が勝つことはできないだろう。刻一刻と、形勢はミカエルに傾いていく。
当のミカエルはどこか、何かを楽しむ様に戦っている様にも見受けられる。まるで、完全な勝利を得ようとするかの様に。
詰められない距離、左腕が狙われる。鋭い弾の速度。避けきれずにリーゼの左腕の関節を削り取られる。
「な……!」
リーゼは中距離砲を左手の中から取り落としてしまう。拾い上げる時間がない。
阿賀野は瞬時に悟る。
「っらぁ!」
取れる手段は近接戦一択。
阿賀野は最大速度を持ってミカエルに切りかかる。ミシミシと不安にさせる音をかき消す様に、金属がぶつかり合う重低音が鳴り響く。
「喰らえ、よっ!!」
阿賀野の攻撃は弾かれる。
彼らが戦うすぐ左横には美空が乗っていたであろうリーゼが倒れている。今、それはただの巨大な棺桶と表現しても間違いではないだろうが。斃れたリーゼの右手には大剣が握られている。
目の前にはタイタンが迫る。
避けるだけの時間がない。
「──っ!」
──ギャリリィイイイイ!
慌てて阿賀野は大剣を盾にする様に構えるが、ハルバードの刃がリーゼの大剣を中程から力強く切り裂き、そしてボロボロのリーゼの左腕をも引き裂いた。
阿賀野は即座にタイタンを蹴り飛ばす。
阿賀野の身体能力を持って放たれた、リーゼの蹴りはタイタンを二十メートルほど吹き飛ばす。
「岩松、どうせコイツはもう使わねぇだろ。貰うからな」
聞こえもしなくなった通信機に向かって一方的に告げてから阿賀野は、持っていた壊れてしまった大剣を投げ捨て、美空のリーゼの大剣を持ち上げる。
投げ捨てた大剣は、すぐ右のビルに突き刺さり、一つの破壊を巻き起こす。
「これも有効利用だ」
仲間の思いを引き継いだ。
などと感動的なものではない。
阿賀野の最強はその場にあるもの、全てを利用してでも勝利すると言うもの。それが運であろうと、奇跡であろうと。仲間の
「ハッ。九郎よぉ、お前も俺の仲間だってんなら武器寄越すくらいの活躍はしろよ……」
微かな呼吸音。
阿賀野の口元から響いたものか。
文句を垂れながらも、敵性機体を見る。赤色の機体はピンピンとしていて、どこにも傷は見えずに、まるで勝利が見えてこない。
「……俺の
阿賀野は駆け出す。ビルを壁にしながら、破壊しながら近づき近接戦に持ち込む。
ぶつかる武器の重たさが伝わってくる。
「まだ、終わってねぇだろ!」
気を奮い立たせる。
燃えろ、燃えろ、燃えろ。
冷めて、覚めて、醒めて、諦めてしまうにはまだ、まだまだ早い。
夢を見ろ。
勝てる未来を描け。
「──俺は、最強だァアアアア!!!!」
咆哮を上げる。
そして、衝突。
脳の奥がチカチカと明滅するほどの熱気。音の爆発。重なるのはハルバードと大剣。
武具、装備の数からして、明らかなまでの黒の劣勢。
だと言うのに、彼は折れない。未だ、敗北を認めない。
彼は正に、最強への究極の求道者と言えた。
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