第74話
アスタゴ東部にある基地の、とある一室で金髪青目の青年は椅子に背を預けていた。その手には電源を点けたままの携帯ゲーム機が握られている。
「俺はいつまでこっち守ってたら良いんだろ?」
アスタゴ東部の防衛についたミカエルは暇をしていた。東部にはたった一度の進軍しかなく、それを撃退してからは東部から攻め込むということがなかった。
西部では盛大な戦いがあったらしく、その情報はミカエルの元にまで届いていた。
ルイスとアメリアの死亡。
カルロスの生存。
「ルイスさん、死んだか……」
ただミカエルの悲しみというものは薄かった。
ルイスの強さは認めていた。ルイスという男はミカエルが今まで見てきた中でも、上位に位置する強さだ。
いや、紛れもなくミカエルを除いた場合において最強と言っても差し支えない。
「ねえ、アダムさん。ルイスさんを殺したのは?」
通信機を繋げて連絡を入れる。
ミカエルは、通信を繋げた状態のそれを目の前にあるテーブルの上に戻した。
『グランツ帝国のシャドウだが……』
「それが相手なら少しは楽しめそうかな」
『……ルイスはそのシャドウを死の間際に破壊した。所謂、道連れと言うやつだ』
「へー、なら、もういないんだ」
『そうだな』
「これ、俺の出番もう無いかな」
これ以上の戦争行為に価値はない。
『まだ、分からん』
「そうだね。万に一つでも俺を楽しませてくれるような奴がいることを祈るよ」
『タイタンの調整は?』
「東部基地の人達がやってくれてる。問題はないよ」
『そうか』
「はあ、退屈だなぁ……」
溜息と共にぼやきが漏れる。
折角、この命をかけた世界ならこれまでの退屈をひっくり返す様な何かがあると思ったのに。あの戦闘も、ひりつく様なスリルを味わう事はできなかった。
『戦争に勝ちたくないのか?』
「俺は別にどうでも良いよ」
『お前は、だろうな』
「アダムさんはどうなの?」
『私もあまり、な。ただ、負ければ国はボロボロになる。だから、民衆も勝って欲しいと願うんだ』
戦争は経済だ。
勝利すれば賠償を獲得し、国が潤う。兵器の購入、国民の損失はそのための投資だ。敗北すれば、さらなる損失を伴う。
彼らはそれぞれの立場で戦争が起きたから、必死に尽くすだけだ。
「そう考えたら、勝たなきゃダメか……」
敗戦を喫した場合、アスタゴには賠償責任が付き纏う。経済がままならない状態になっては国民の生活が脅かされることだろう。
どうでもいいというのは彼個人の考えであったが、民衆などの影響も考えれば負けると言う事は宜しくない。
「まあ、勝つよ。俺個人としては、本当に興味はないけどさ」
彼が求めるのは自分と対等に有る敵。つまりはライバルだ。自分と張り合う事のできる存在を求めているだけ。
『……まあ、お前は勝ち続ければいい。そのことだけを考えろ』
勝利こそがアスタゴがミカエルに求めるもの。負けない兵士。最強の兵士であって欲しい。『悪魔』と恐れられたアイザック・エヴァンスの再来となってくれたら、文句など付けられようがない。
「俺に負けなんてあり得ないよ、アダムさん」
結局、最後まで自分は立ち続ける。
倒れた相手を見下ろしている。
自分が斃れる姿を想像できない。どれ程の熱い戦いがあったとしても。その戦いが血を沸騰させる様なものであったとしても、最後にはミカエルが勝利する。
そんなビジョンが彼には見えている。
『──流石は最強だな』
皮肉でも何でもない。
感心した様子でアダムは呟いた。
「じゃあね、アダムさん」
ミカエルは右手を伸ばしてテーブルの上から通信機を手に取り、連絡を切った。
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