坂平の覚悟
「確認したか?」
『はい、大丈夫ですよっと』
通信機を手に取った岩松が尋ねれば、佐藤の声が帰ってきた。
『四島、九郎、岩松の出航を確認しました』
「そうか」
『阿賀野はもう施設から出ましたか?』
「私は把握していないが出たんじゃないか?」
『そうですか。直ぐに戻ります』
「時間はある、ゆっくりとでも構わない」
岩松は少しばかりが疲労を感じていた。上層権力の圧力を感じながらも、国に尽力をしてきた。だと言うのに、一向に報われる気配が見えない。
「四島雅臣」
彼の実力は本物だ。
これが最後の戦いになる。最後の足掻きだ。陽の国が出来る全てをぶつけて、一矢報いるのだ。
中栄国との戦争で
タイタンと言えど、ただでは済まないだろう。爆発の威力は中栄国との戦争で理解できている筈だ。戦場における物資の回収は不可能と思って良い。
故に、リーゼの残骸を出来る限り敵に回収されない為にも問答無用で吹き飛ばせば良い。
「四島君には悪いが、もしもの場合は潔く死んでもらおう」
九郎も、彼の孫娘である美空も例外なく。松野美優を殺した時のように、役立たずを究極の攻撃兵器に変える。
「陽の国のためだ。尊い犠牲になってくれ」
この犠牲は正義より起きる物。なれば、人は納得せねばならない。
そこにあるのが大人という怪物のどれほど醜い意思であったとしても。
「すみません」
扉を叩く音が聞こえた。
「入れ」
短く岩松が答えると扉を開き、坂平が入ってきた。
「坂平です。入ります」
「どうした」
岩松の問いに少しばかり迷って、視線を斜め下に彷徨わせてから、苦しげに答えた。
「……私も、ここに居させてください」
「どうしてかね?」
「彼らが戦う末路から逃げるのは嫌なんです。大人として──」
子供が戦わされている。
大人の都合で。
この事実から目を逸らすことが坂平には許せなかった。自らが背負う責任としては重すぎる。それでも、一人の軍人として受け止めなければならないことなのだと感じていた。
大人として、彼らの人生を見なければならない気がした。
「──彼らを見届けなければならない」
彼らが、若き命が描く戦場の物語を。
「そうかね。好きにしたまえ」
「ありがとう、ございます……」
間違いでも。
正解でも。
彼らが死んだこと。彼らが生きていたことを、絶対に忘れてはならない。
だから、目に焼き付けろ。
「……すまない」
謝罪の言葉が溢れてくる。何もできないことの無力を味わいながらも、彼は見続ける。
卑怯な話だ。
利用して、利用して、利用して。
そして、この先で殺して。
今更、天国に行けるわけがない。その癖に、幾ら叫んでも届かない謝罪を述べるだけだ。
足掻いたのだ。
死にたくないと叫んでいた。
魂の奥底で吼えていた。
絡みつくような呪いを受け入れなければならない。
ギロチンの刃を落としたのは、紛れもなく坂平であったから。
「俺も……」
その先に続く言葉は静寂の空に掻き消えた。
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