第55話

「アスタゴめ……」


 画面に映し出されたのは六機の黒い機体と、一機の赤い機体。

 その強さは驚異的、圧倒的。


「東からの攻撃は不可能か……」


 岩松が答えを出すのは早かった。このタイタンを排除するだけの戦力を到底、準備出来るとは思えなかったからだ。

 ただ、そのせいで初めの作戦は無駄に終わった。つまりは間磯の死はただの犬死にになってしまったと言うことだ。


「ちっ、捨て駒ではあったが、こんな事になるとはな……」


 破壊されたリーゼの資材回収もままならない現状、まだ国内で集めた素材と、中栄国との戦争によって手に入れた賠償によってリーゼを作って送っている。

 極力、回収すべきだと言われてはいるが、不可能なものは不可能なのだ。

 彼の目の前にある受話器が通信を伝えるようにジリジリと鳴り響く。

 その受話器を取るのを岩松は一瞬躊躇ったが、仕方がないと言うように手に取った。


『岩松君』


 声の主はすぐにわかった。

 元帥の声だ。


「はい、元帥殿」


 岩松は緊張を覚える。

 この後に言及される事は理解していたからだ。


『今回の戦い。何の成果もなかったようであるが。勝算はあるのかね?』


 問われたところで、あのタイタンを攻略できなければ、勝算などあるはずもない。しかし、ここで分からない、勝算はない、などと答えて仕舞えば、受話器の向こう側にいる元帥の機嫌を損ねる事になるのは理解できた。


「ええ、勿論です。この岩松にお任せください」


 岩松の答えが正解だったのか、どうか。元帥は戦争が始まる前とは全く違った調子の声音で「期待している」と言ってから、通信を切った。


「どうすれば良い……。一先ずはあのロッソに関しては無視をした方が良いのか……」


 あれは東海岸の守りに専念しているはずだ。ならば多少の被害を考えて挟撃に出るべきか。しかし、それでは余りにも損耗が大きすぎる。

 東海岸からの攻撃は頭の中から除外するべきだ。ならば西海岸。しかし、西も最初の攻撃によって守りは固まっているはずだ。

 東海岸のあのタイタン以外であれば、一点集中で攻略できるかもしれない。証拠に間磯はタイタンを一機、仕留めている。


「何よりも先に、兵士を送ることを考えるべきか……」


 次の瞬間に扉を叩く音が響いた。


「入りたまえ」


 岩松が返答をすると、ガチャリと扉が開かれた。入ってきたのは、やはり坂平である。


「その様子では誰を送るか決まったようだな」


 岩松は精神を落ち着けて、坂平の顔を見て尋ねる。


「私は、川中を送るべきかと……」


 若干、顔を歪めながら坂平が提言した。


「ふむ、ならば川中と竹崎を戦場へ送ろう……」


 そう呟くと、坂平は目を見開きながら大声で岩松に尋ねる。


「待ってください! 一人ではないのですか!」


 船の往復をわざわざ続けるよりも二人を同時に送り込んでしまった方が早い。

 同時に二人が死んだ場合でも巻き返しはできるはずだ。

 そんな考えではあったが、現状、予想外にも、もう一人が死んでしまった。


「山本君が死んだ……」


 そう伝えれば、坂平は渋々ではあったが引き下がる。戦力補充の意味合いとして、岩松の考えはどこにも間違いはない。


「そう、ですか……」


 納得しようとして坂平は呟く。


「退室しなさい」


 岩松の言葉に従って坂平は、部屋を出て行った。

 窓の外は憎らしいほどに晴れ渡っている。

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