第42話

 スクリーンに映し出されたのは赤い巨神。リーゼよりもガッチリとした躰と、ハルバード、盾、銃の装備により、リーゼよりも防御性能が高いことが予想できる。

 リーゼの場合、盾を展開するには大剣を変形させる必要が出るため、相手の方が防御性能は高い。

 ただ、目を見張ったのはそれではない。

 阿賀野はその数少ない戦闘情報から、赤色の巨兵に一言、感想を漏らした。


「強いな……」


 つり上がる口を隠すつもりもない。

 この強さは松野では死んでしまうのは仕方ない。そもそもにして、この赤い巨兵自体のスペックは不明だが、それに乗り込んでいる者は紛れもない強さを誇っている。

 ハルバードが突き刺さったことにより、映像は中断される。


「……松野が死んだのは、この赤い巨兵が原因だ。我々はこの敵機を“ロッソ”と呼ぶことにした」


 ロッソとはマルテアの言葉で赤を意味する。

 それはこの赤い巨神を指し示す上で、ピッタリの名前と言える。

 ただ、これは陽の国、マルテア、グランツ帝国の同盟間でのみの共通名称である。正式名称はタイタンと別にある。


「コイツが……」


 阿賀野は食い入るようにタイタンを見ていた。いや、タイタンというよりも奥にいるパイロットを見ていた。


「今回、リーゼの破損が起きたがグランツ帝国から一機、支援されることとなった。次に起こると予想される、アスタゴとの戦争に於いても三機を投入することは可能だ」


 教卓の上で顔を伏せて坂平が淡々と告げる。その姿は機械のように見えて、ひどく冷たいものに感じてしまう。


「アスタゴとの戦争はより大規模なものとなる。三人目のパイロットして──」


 顔を上げて、坂平は間磯を見た。


「──間磯巧。お前を指名する」


 彼の言葉が一瞬、間磯には理解できなかったのか一瞬、ポカンと呆気に取られたような顔を見せたが、すぐに表情を直す。


「はい」


 間磯はハッキリと返事を返す。


「やった……。僕がパイロットに……」


 喜びを感じ、間磯は小さく拳を握りしめた。彼の抱いた感覚が他の誰かには理解できないものであったのは確かだ。


「アスタゴとの戦争に向けて、戦争準備期間を無駄にしない事だ。自主的に訓練に励むと良い。死ぬつもりがないというのなら」


 戦争準備期間に何をするか。ただ、そこまで長くもない期間で、あのタイタンに迫ることは不可能なはずだ。

 阿賀野にはそんな予測ができていた。


「話は以上だ」


 無表情のまま教壇を降りた坂平は教室を出て行った。阿賀野にはその顔が何かを隠しているように思えたのだ。

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