第35話

 その日は雨が降っていた。

 普段以上に暗い空の下で、銃声と断末魔が視界の悪い世界に響き渡る。


「ちっ! 構わず殺せ!」


 本間の指示が戦場にいる全ての人間に伝達される。

 戦法は変わらず、リーゼを盾にして歩兵たちは安全を確保して戦う。

 相手も木陰や、建物の陰に姿を隠して攻撃を続ける。


「雨のせいで、ちょっと見づらいな……」


 文句を言いながらも的確に銃弾で顔を見せた敵兵を撃ち抜く。

 現在、戦場に投入されているリーゼは三機。依然として優位は崩れない。

 中距離砲が構えられ、トリガープルが弾かれて、弾が発射される。

 発射された銃弾は木々を吹き飛ばす。建物を倒壊させる。そして、慌てた敵兵たちを冷静に冷徹に撃ち抜く。


「本間上官、敵兵の撤退を確認しました」


 本間の近くに芝浦がやってきて、そう伝えた。


「そうかそうか。なら、相手が居なくなるまで殺し尽くせ」


 逃げる兵の背中を撃ち抜く。


「了解です」


 本間の言葉に短く返答して、銃を構えて再び殺戮にその身を投じる。


「松野、大丈夫か?」


 いつもよりも少しだけ動きの鈍い松野に山本は心配して、リーゼ内で通信をつなげた。

 音声のみの通話である、それには松野の荒い息が聞こえてくる。


「大丈夫、問題、ないっ」


 松野は顔を前に向ける。女だからなどとは言っていられない。辛いからなどとは言っていられない。

 三人は仲間だ。辛い今も一緒に戦うと決めた仲間なのだ。だから、一人此処で挫けるわけにはいかない。


「…………」


 ガチャリと中距離砲の銃口を構えて、敵兵に向けて発射する。


「松野、切るぞ」


 山本は松野との通信を切ってから、


「飯島はどうだ?」


 と、尋ねる。

 最も巨神の名に恥じぬ戦いをしている飯島に聞くのもどうかとは思ったが、すぐに答えが返ってくる。


「問題ねぇよ。そっちは?」


 尋ね返された山本は大剣で中栄国の兵士の体を横に薙ぎ払いながら答える。

 山本の目にはまるで強風に運ばれるゴミのように人体が赤い液体を撒き散らしながら吹き飛んでいく様が映る。


「こっちも問題なし、だ」

「そうか」


 そこで山本は通信を切る。

 これ以上のやり取りは無用。どうせ、今行われている作戦が終了すればまた艦内で話すこともできる。


『良い調子だな、パイロット諸君』


 三人のヘッドギアに一方的な通信が入れられる。


『本日の作戦は終了だ。船まで戻れ』


 ブツッと通信が切れた。その声に飯島は少しばかりの苛立ちを感じてしまう。それでも従わざるを得ないのだから、より一層、怒りを覚えるのだ。

 ただ、松野と山本のことを思い出して、大きく息を吐いて、怒りを鎮める。

 陽の国の兵士が移動し始めたのを確認して、三機のリーゼも移動を開始する。


「今日も三人全員、助かったな……」


 飯島は通信を繋げることなく、一人リーゼ内で呟いた。

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