第10話 強志目線での出会い
「な、なんでここに? 学校は? っていうかコーラありがとう? いや何で? いつから?」
俺はあからさまにキョどる。理解が追い付かない。浮気バレた時ってこんな感じなのかな。いや彼女がいた事ないし、そんな事思ってる場合じゃないし。あれ? メガネしてる。普段はコンタクト? にしても田中のパジャマ、女の子っぽいっていうか可愛いな。この状況を飲み込めないで軽い現実逃避をしようとしかけた時、田中が話し始めた。
「実はウチのおばあちゃん奈良に住んでるんです。お母さんの実家で。それで昨日おばあちゃんが倒れたって聞いて、家族でお見舞いに来たんです」
意外と冷静な田中を見て、ドギマギした自分を恥じた。次第に落ち着いてきた俺は、話し出す。
「そうだったのか。マジで驚いた。おばあちゃん、大丈夫だったのか?」
「はい。とても元気で安心しています」
ニコッと笑う田中は、癒し系だった。この前の泣いた後の笑顔も、映画を語る時も。細田の言っていた通り、真っ直ぐを感じる。
「それなら良かった。夜も遅いし、ゆっくり寝るんだぞ」
俺は部屋に戻ろうとする。が、これは困った。前の方から歩いて来たのは学年指導の先生だ。この時間に部屋の外にいたらこっ酷く怒られる。どうする、俺。
「ヤバイ、学年指導の谷内だ」
「え、あの怖そうな体育の先生? あっ本当だ」
困った俺は、急に何かに手首を引っ張られ、体のバランスを崩した。引き寄せられた正体は、田中の細い両腕だった。こんな細いのにどこからそんな力が出るのか、って思う間も無くドアが開き、中に連れ込まれ、ドアと鍵が同時に閉まる。
俺達二人はドアに耳を当て、谷内が歩き去るのを待った。足跡は遠退き、ふぅ、と胸を撫で下ろす。気付くと目の前に、田中の顔があった。近い、近過ぎる!
「ご、ごめん」
二人して急激に距離を取り、しばしの沈黙の後、なんとか切り出した。
「その、ありがとう。助けてくれて。てか勝手に入ってまずいよな。たまたま空いていたから良かったけど、そろそろ出ようか」
この状況に対する免疫が無さ過ぎる俺は、咄嗟に部屋から出ようとした。すると田中は俺の袖を引っ張り、モジモジしながら言った。
「大丈夫ですよ。ここ、私の部屋ですから」
「!!?」
ドキッとした。狙ってる訳ではないとは思うが、照れ隠しの上目遣いはズルい。心臓が高鳴るのを確かに感じる。でもそうじゃない、それどころじゃない。ご両親がいる部屋に入ってしまったのと同義。これはすぐさまお暇しなくては。
「あ、両親は別の部屋ですので大丈夫です。予定したホテルの予約が手違いで取れていなくて、急遽ここになったんです。そしたら団体のお客さんがいて、二人部屋が二つしか空いてなかったんです。そりゃウチの学校が使ってたら無理もないですよね。偶然過ぎてビックリです」
「そっかぁ、色々助かった。マジでありがとな」
いや、本当助かった。もしご両親がいたら何と説明すれば良いのか。俺は一息ついてペプッシュコーラを飲み、何気なく田中に渡した。
「これもありがとう。まさかホテルの飲み物がこんなに高いなんてな」
「本当ですね。それにたまたま部屋から出たら先輩がいて驚きでした」
クスクス笑いながら田中もコーラを飲む。ボトルを返してもらう。もう一口飲もうとする。その時俺は気付いてしまった。ちょっと待て、これっていわゆる。そう思って田中と顔を合わすと、同じ事を考えていたのだろう。二人して顔を真っ赤に染める。
またもしばらく沈黙が流れる。すぐに出て行けば良いものの、何故か足はドアの方に向かなかった。
「はは、何だか田中といると、事故続きだな」
「もぉ、人をトラブルメーカーみたいに言わないで下さいよぉ」
その時、ぷくっと膨れる目の前の小さな女の子が、とても愛おしく感じた。お風呂に入ったばっかりなのか、良い香りが心を動かす。まだ少し濡れた髪は、大人っぽさというか、心を弾ます。何よりこの雰囲気が心惹かれる。俺もしかしたら田中のこと…。
気付くと自分の気持ちばかりに気が行ってしまい、会話が止まる。妙な空気感で田中の方は目が泳いでいる。それでも何か言わなきゃと思ったのは同じようで、向こうから切り出してくれた。
「あっそうだ知ってました?」
田中は急に思いもよらないことを言ってきた。
「ペプッシュコーラって、元々は胃薬だったんですよ」
「はは、何だその情報」
面白いけどここで言うか? という言葉をかけてくれて、内心安心した。こういう場の和ませ方も有りだな。そしてもう一つ、思いもよらないことを言ってきた。
「少しお話していきませんか?」
男女二人きりの密室で?! 俺は不覚にも、あんなことやこんなことで頭を巡らせる。こんなところで一線を越えるのだろうか。でも流れ的にそうなのか。ちゃんとリード出来るんだろうか。
「今日はブログ更新出来なかったから、映画のお話でも」
田中の一言で我に返る。は、恥ずかしい。男ってみんな、こんなもんなんだろうか。
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