第47話 視察。のなかでの攻防


 ――世界中の薔薇が揃うと言われるマーティン王国自慢の薔薇園へ赴けば。


「わたくしがさり気なくアルバーノ様と二人っきりになりますので」


「そこで私がサンドラ様と……ッ」


「さぁ、ルイーザ様! 向こうに見えるは恋人同士で見ると永遠に幸せになれると言い伝えのある七色の薔薇でね!」


「それは僕と見に行きますので、サンドラ殿は別の場所を案内してもらえますか」


「……」


 ――珍しい動物、元の世界で言うところの幻獣の飼育を行う研究室へ赴けば。


「動物に好かれる女性は可愛く見えると昔から言われておりますわ」


「な、なるほど……! 動物に好かれれば良いのだな」


「おや、警戒心の強い角兎がルイーザ様の足元に」


「動物は誰が本当に優しいのか分かりますからね」


「……」


 ――サンドラ様御用達のスイーツショップへと赴けば。


「共通の感想というものは互いの距離を縮めると言われております」


「甘いものはそこまで得意ではないが……、ど、努力しよう」


「これはルイーザ様をイメージして作ってもらった一品でね、さあ、どうぞ一口」


「彼女は立派なレディですので、一人で食べれますよサンドラ殿」


「……」


 その後も同様の展開が続き……。


「やはり貴様を殺して私も……ッ」


 わたくしは血涙を流すラウロ様に壁ドンされておりました。全女子が羨やむ壁ドンですわ。それも美男子であらせられるラウロ様に、です。これはもう皆が羨み涙することでしょう。わたくしも涙が止まりません。命が危ないという意味で。


「落ち着いてください、まだ初日ではありませんか」


 わたくしなんて何度となく意味の分からない展開に巻き込まれたというのです。一度や二度望まない結果になったのが何だというのだ。


「失敗するだけならともかく、貴様ばかり好感度があがっているようにしか見えないのだがッ」


 否定は出来ません。

 アルバーノ様が逐一ガードしてくださっているので何ともなっておりませんが、もしも彼が居なければどうなっていたことでしょう。二重の意味で。


「ここは原点に戻るのは如何でしょう」


「今度はどのような手で私を貶めるつもりだ」


 貶めたつもりは一度もありません。どちらかといえば、わたくしのほうが作戦が失敗していて貶められている気分です。


「やはり、ラウロ様が女性の姿をなさるというのは」


「却下だ」


 食い気味で却下されてしまいました。ただ嫌なだけかと思えば、ラウロ様の表情はなにやら暗く……。


「……なにか理由があるのですか」


 わたくしとラウロ様が二人っきりでこれだけ会話出来ているのは、アルバーノ様とサンドラ様が乗馬を行うために席を外しているから。王女であるがために表立って馬で誰かと競うことの出来なかったサンドラ様たってのお願いであり、アルバーノ様も二つ返事で受けたのです。


「……ああ…………」


 それにしても、ラウロ様にまで呪いがあったという設定はなかったはずです。と、すれば彼女が女性の姿に戻れないのは政治的な理由でしょうか。

 確かにゲームでも彼女はなかなか騎士の姿から変わろうとは致しませんでしたが、設定には語られていなかったなにやら重い理由が。


「恥ずかしいじゃないか」


 返してください、私の心配。


「この期に及んで何を仰っているのですか!」


「生まれた時から男として育てられたんだぞ! 今更女性の恰好をするだなんて……、女装みたいで変態じゃないか!」


「ですが、ラウロ様は女性ではありませんか」


「それとこれとは話が別だ。いきなり本当は女性だったので、今後は女性の恰好をするなんて言えるものか!」


「とてもお近くにそれをなさっている方が居らっしゃいます!」


 しかもあちらは本当は男なのに女性の恰好をしていたことを暴露したのです。精神的にはこちらのほうが大分に厳しいと思うのですけれど。ていうか、俺は無理だ。


「サンドラ様はどちらにせよ御美しいから問題はない!」


「ラウロ様も充分に御美しいかと……」


「今度はそうやって私を騙して辱めるつもりか」


 どれだけわたくしのこと信用出来ないのですか!?

 本日の作戦が上手くいっていないことは認めますが、これだけ貴女のために動いているのですから少しは心を開いてくださいな!!


「ですが、男性のままですとサンドラ様と並んで歩くにも無理があるのではありませんか」


「元より私はお付きとしてだな」


「ですから、今のままですとどこまでいっても王子とお付きの騎士から離れられないと申しているのです」


「……む」


 王女が王子であったと混乱している国に更に混乱を生み出しかねませんが、それはそれとして横に置いておきましょう。申し訳ありませんが、わたくしはわたくしのほうが可愛いのです。


「見ろ、サンドラ様とアルバーノ様だ」


「話をそらさないでください」


 馬に跨り現れた二人は、まるで自分の手足のように馬を操って障害物を突破していく。わたくしは父の命令で乗馬を嗜んだことはありませんでしたが、それにしてもサンドラ様の乗馬テクは素晴らしいものです。いままで王女として生きて来たはずですのに。


「王族として何が起こるか分からないからな。出来るに越したことはないと習われていらっしゃったんだ。まぁ、表向きの理由だがな」


「ああ、なるほど。ですのであれほど見事に馬を操られるのですね」


「……貴様」


「アルバーノ様のほうがカッコ良いですが!」


 御自身から話を振ってくださったのですからそれに乗っかっただけで睨まないでくださいませんか! どれだけ嫉妬深いのですか……。

 だいたいどうしてわたくしがアルバーノ様に黄色い声を挙げないといけないというのか。ああ、気持ち悪い……。


 もっとも、アルバーノ様がカッコ良いというのは嘘でもありません。まさしく、正統派の王子様。絵本の世界から飛び出してきたといっても信じてしまいそうなほど、二人の周りだけキラキラと光っております。


「そうです! ラウロ様がここでサンドラ様へ声援を送るというのはいかがですか」


「なるほど……、その手があったか!」


 勝負をしておられる様子ではありますが、それは真剣勝負ではなくお遊びでのそれのようですし、周りから声援を投げかけても問題はないでしょう。

 この様子ですと普段はあまり声援などはかけない御様子。普段とは違う行動に自然と人は意識を向けることに、


「サンドラ様! 意識が散漫ですよ! もっと馬に心を傾けて!!」


「それは声援ではありません……」


 根本的に問題がある気がしてきました。

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