第15話 夢の中のライアスさん
「マリアさん、どなたか僕の手伝いをしていただける人をご存じありませんか?
ずいぶんと勝手な話なんですが、
人手が必要な時だけになってしまいますけど、
ルルさんのような出産の時や、僕が人手が欲しいと判断した時に、
手伝ってもらえる人が必要なんです。
大したお給金も出せないと思いますが……。」
「手伝いねえ…。
でも、資格の有る人の方がいいんだろ?」
「いえ、それは必要ありません。
とにかく僕一人では手に負えない時に来てほしいんです。」
「なんだ、そんなの探す必要なんて無いわ。」
えっ、探す必要が無い?
いや、簡単な仕事とはいえ、手伝ってもらう人はぜひ欲しい。
「私がいるじゃない。
わが家は人手が有るし、
いくらだって手伝ってあげられると思うの。
まあ、もし私が手伝えない時は
代わりの友達にも声をかけておいてあげる。
もし力仕事で必要な時は、遠慮なくうちの旦那たちを使えばいいわ。」
「そんな、いいんですか?」
「あぁ、かまわないわよ。
その代わり時給はしっかりもらいますからね。」
マリアさんは、まるで冗談を言っているようだ。
「余り出せないかもしれませんが、
よろしくお願いします。」
此処の人たちは本当にやさしい人ばかりだ。
僕は王都にいる頃とは比べようもないほどの幸せを感じていた。
「そうだ、ついでと言っちゃなんだけど、
決して私がお金がほしいから言うんじゃないのよ。
ただ今日の様子を見る限り、
先生はろくな食べ物も摂らず、栄養失調になってしまいそうだね。
薬師の不養生で倒れでもしたら、いい笑いものになってしまうよ。
だからね、もしよければ夕飯ぐらいは、うちに来て食べないかい?」
「いいんですか?」
「勿論。もし何だったら、お昼もお弁当を持ってこよう。
なに、余り物で作るつもりだから、大した物は出来ないけどね。」
「そんな、お昼までお手間を掛けさせられません。」
僕の為に、わざわざここまで来てもらう訳にはいかない。
「何、治療院までは散歩にもならない距離だ。
先生は家族みたいなものだもの気にする事は無いさ。」
マリアさんの言葉に僕は目頭が熱くなってきた。
今まで家族と縁が無かったから、
そんな事言われた事無かったから、
うれしい、とてもうれしい。
いつの間にか僕は涙を流していたみたいだ。
マリアさんは僕に近寄り、抱きしめてくれる。
「先生は、今まで辛い目に遭って来たのかね。
嫌な事は心にためず、誰かに話した方がいい。
もし話せるようなら、聞かせて頂戴。
いつでもいいからね。」
「ありがとうございます。」
「でもマリアさんが僕の手伝いをしている時、ルルさんは大丈夫ですか?」
「そんな寝たきりの病人じゃあるまいし、
私が此処に来ている時間ぐらい一人だって大丈夫よ。
私の旦那だって、ゴードンだっている。
それにあの子だって、いつまでもここに居る訳じゃ無いしね。」
「なんか、マリアさん達にはお世話になってばかりです。
でも、そうしていただければ、とても助かります。ぜひお願いします。」
「任せておきなさいって。」
とっても優しくて、頼もしくて、心強い人。
僕はこの村に来て、この人達と知り合って、本当に良かった。
その夜も僕はライアスさんの夢が見たくて、石を握りしめベッドに入った。
寝ている間に、この石がどこかに行ってしまわないか、
ちょっぴり心配だったけれど。
そして寝入った僕は、やはりライアスさんの夢を見ているようだ。
ライアスさんは馬に乗っている。
あたりは真っ暗なのにすごいスピードで森の中を走っている。
「ライアスさん、
危ないから、こんな夜中に馬に乗らないで。」
するとライアスさんは辺りをキョロキョロしながら、馬を止める。
「デニス?
デニスなのか?」
「はい、僕です。
僕の声が聞こえるのですか?」
「あぁ、聞こえる。
どこから聞こえるのか分からないが、
よく聞こえている。」
「うれしい。
ねぇライアスさん、いくら僕の夢の中でも
こんなに暗い夜に馬で走らないで。」
「だが、一刻も早くデニスに会いたいんだ。」
「え、ライアスさん、
今、僕の……イズガルドに向かっているのですか?」
「あぁ、苦労したぞ。
聞いた事も無い村を探し当てるんだ。
とても精密な地図でその名をようやく見つけた時は、
本当にここなのだろうかと戸惑った。
しかし、迷っていても仕方ないからな。
とにかく行ってみようと、馬を走らせていたところだ。」
そう言いながらライアスさんは、
道の傍らの大きな木に馬をつなぎ、その根元に座り込む。
「イズガルドというのは、王都から東方の村でいいのか?」
「はい、そうです。
王都から東に五日ほど馬車を乗り継いで、
終点のトルネドの町から5キロほど行った村です。」
「良かった、間違っていなかった。
デニス……。」
「はい?」
「あと三日ほどで着く。
どこにも行かず、その村で待っていてくれ。」
「はい。
僕はずっとこの村に居ます。
でもお願い、危ないので夜は馬に乗らず、宿に泊まってください。」
「分かった、約束する。
だが相変わらず心配性だなデニスは。
なあデニス。
会ったら言いたいことがあるんだ、聞いてくれるか?」
「ええ、いいですよ。
ライアスさんも僕の話を聞いてくれますか?
僕がこちらでお世話になった人の話や、
こちらであった事を、ライアスさんに聞いてもらいたい。」
「あぁ、楽しみにしているよ。」
「僕も楽しみ……。」
その後は深く眠ってしまったようで、気が付いたらすでに日は登っていた。
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