第16話 標的1
~メリアーナ・アルフォウス~
今朝の食事は最悪な気分だった。あの忌々しいステアにぴったりな安物を侍女として与えて良い気分だったというのに、よりにもよってその安物に足元をすくわれたのだ。ただ気分が悪いだけではない。最悪という他ない。
最悪の朝食を終えて自室で待っていたところ、扉がノックされる。
「メリアーナ様、お呼びでしょうか」
自室に招き入れたのは屈強な男達。腕に覚えのあるアルフォウス家の私兵部隊を束ねる者達だ。
「仕事よ」
「はい。どこの狼藉者でしょうか?」
「先日新たにステアの侍女になった娘よ」
「は、はぁ…」
男達の返答は歯切れが悪かった。
「何か言いたいことでもあるのかしら?」
「いえ、身内に関する者であれば追い出せば済む話ではないかと思いまして…」
確かにアルフォウス家として雇用しているという面もある。ならば雇用を止めて追い出してしまえば二度と顔を見なくて済む。しかしそれではこの怒りを収めるのに不十分だ。
「奴隷風情がこの私に盾突いたのよ。生きていることすら許せないわ」
これだけで私兵部隊の面々は頷く。細かく命令をする必要はない。後はいつも通り、近いうちに引き取り手のない死体が一つできあがるだけだ。
「あぁ、それと…これを機にあの子にも身の程を知ってもらう必要があるわね」
今回の件で忌々しいステアがどう出るかわからない。ならばこちらから先手を打っておくに限る。
「あの子、薄汚い浮浪児達になけなしのお金を送っているそうじゃない」
「孤児院のことでしょうか?」
「そんなたいそうなものではないわ。同類が傷をなめ合っているだけよ」
孤児院とは国家レベルのやむを得ない事情で親を失った子供を国が保護するものだ。しかしあそこは違う。あそこに集まっているのは孤児ではなく、ただの浮浪児だ。望まれなかった薄汚い子供達が身を寄せ合っている場所に過ぎない。
ステアにはぴったりな場所だ。
「あそこは…もういらないわ」
望まれなかった子供達。ステアと同じ。似たもの同士の傷の舐め合い。今までは好きにしていればいいと放置していたが、今回の一件でその考えも変わった。
「綺麗さっぱり、掃除しておきなさい」
汚れは綺麗にしなければならない。汚いものは捨てなければならない。置いておくと不衛生で、見ているだけで気分が悪くなる。
「…はっ、お任せください」
私兵部隊をまとめる男達。彼らは一瞬の間を置いて命令を受け入れ、素早く身体を反転させて部屋を出て行った。
「本当に腹が立つわ。イライラさせられる」
少量の毒を少しずつ飲ませて徐々に命を消すって行く。どこの誰にも不審に思われることなく、あの忌々しい子を亡き者にできる算段だった。しかしそれが今後は難しくなった。ならば少々強引にでも、片をつけられるところはつけておく。後顧の憂いは残さないに限るのだ。
「ステア、あなたがこのアルフォウス家にいることを認めない」
忌々しいあの子のことを考えるだけで嫌悪感がわき出てくる。この感覚と長く一緒にいることは自らの健康にも美容にも良くない。
「絶対に認めないわ。妾の子など…」
血の繋がらない子など、不要なのだ。
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