第10話:兄弟

 賊徒の扱いについて意見の割れるリオンとカイだが、何よりもこどもを保護すべきという考えでは一致していた。この二人も、幼い頃、イルマ山岳地帯から保護されたこどもだった。


 リオンが助け出されたのは、まだ物心がついたばかりの頃で、記憶は曖昧だった。山岳での暮らしは、穏やかで悪いものではなかったように思う。もう顔も思い出せないが、両親の愛を一身に受けて育った。


 山岳での最後の記憶は、タリル旅団が来た日のものだ。逃げ惑う人々の間で、立ち尽くして泣いていると、兵に抱えられ、山の外へと連れ出された。訳も分からず暴れたが、大人の力に叶うはずもなく、その後は馬車に乗せられこの帝都へとたどり着いた。


 はじめて見る大きな街に、圧倒されたことを、リオンは覚えている。その時はまさか、彼自身がその街で軍人として育つとは想像もしていなかった。


 つい昔を思い出し、黙り込んでいたリオンは、カイの怪訝そうな視線に気づいて我に返った。


「今回は、何人が兄弟になるかな」

 取り繕うようにリオンは言う。


「できれば、戦いとは無縁の、普通の生活を過ごしてほしいけどな。ここで孤児が生きていくのであれば、軍人になるのが、人並みの生活を送るための唯一の道だ。大半は旅団に入るだろう」

 カイは寂しげに答えた。


 タリル養護院で育ったこどもたちは、みなタリルの姓をうける。一般には存在しない姓であり、タリル姓のものはみな養護院で育った軍人だった。


 一部、どうしても訓練に適応できない者たちが、養護院を離れ帝都で暮らす例もあったが、生活のための技能を身につけられず落ちぶれていくのが普通だった。


 リオンとカイは、一緒に帝都へ連れてこられた。リオンより二つ歳上のカイは、リオンと山岳で暮らしていた頃を、少し覚えているらしい。そのため、兄貴分としてリオンの面倒をみようと勝手に決め、これまで何かと世話を焼いてきた。


 そうして二人はリオン・タリルとカイ・タリルとして、養護院で家族同然に育った。だが、成長するにつれて、どこかこどもっぽさの残るカイよりも、リオンの方が早く大人びてきた。


 いつの間にか、二人は兄弟というよりも親友のような間柄となり、今に至っている。


 歳もばらばらな、数百人のこどもたちが共に暮らすので、全員が親密になるわけではない。タリル旅団は全員で一万人はいるので、それだけの数がいれば、面識のない兄弟姉妹の方が多くなる。それでもタリルの姓を持つ者は、みな強い仲間意識を持っていた。


 タリル旅団には、山岳以外からも孤児は集められている。みな兄弟ではあるが、山岳から保護されたこどもたちは、リオンにとっては特に、同郷の歳の離れた弟や妹のようなものだった。

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