ジークフリート編 第6章 覇王の生まれる日
第1節 戦いの後
これは何だろう?
僕は『修羅の国』の騎馬『黒駒』に跨り、修羅の国の独特な片刃剣・刀を天高く掲げ、激情に駆られて檄を飛ばしている。
眼前の誰もが別次元の猛者たちのようだ。
精悍な顔立ちのサムライたちは不敵に笑い、それから活火山が噴火するように怒号をあげた。
いの一番に断崖絶壁に飛び込んだのは、シュヴァリエの大男、僕もためらいなく唯一無二の親友である相棒とともに敵軍に奇襲をかける。
そして、場面が変わった。
船上の戦いが行われ、決着がついたようだ。
敵軍の将たちは船とともに海に藻屑となった。
僕は敵軍の一族が滅びるさまを虚しく見届けている。
その隣に立つ親友は僕の肩に手を置いて、まるで慰めているかのようだ。
さらに場面は流れた。
僕と親友、婚約者である彼の妹、他の信頼の置ける側近たちと山野を駆け巡っている。
追手の大軍が直ぐ側まで迫り、僕たちは絶体絶命の危機だ。
敵一族を滅ぼした後、用済みとなった僕は実の兄に誅殺されようとしていた。
僕はみんなの命を助けるために一人で投降しようとした。
しかし、親友は僕を気絶させ、側近たちは最期まで戦い抜いた。
そして、僕と背格好のよく似た側近が影武者となり、身代わりとなった。
親友は僕と妹を助けるために、他の仲間達を犠牲にして大海原に逃げ出した。
彼は近場の海賊を従え、遥か彼方の新天地を目指した。
僕は彼を責め立てたが、一番辛かったのは彼の方だと分かっていた。
新天地まで後少しのところで大嵐で船が沈み、僕たちは時化の海に投げ出され離れ離れとなった。
その後、様々な場面が散発的に流れた。
魔族の村、魔帝国、地を埋め尽くす魔族の大軍を率いる僕が人族の軍を蹂躙している。
銀髪の吸血鬼の少女が僕に笑いかけている。
僕は優しく彼女の頭をなで、暗黒大陸に咲き誇る数少ない一面の花畑の中で笑い合っている。
それから婚約者との哀しい再会、唯一無二の親友との殺し合い、そして……
僕は一体何を見ているのだろう?
夢?
それとも……
☆☆☆
僕は不意に目が覚めた。
漆黒の空には満点の輝く星々、昼間は赤茶けた乾燥した岩山もこの時間は闇に染まっている。
何か夢のようなものを見ていた気がするが思い出せず、目からこぼれ落ちる冷たい雫を手で拭った。
「む? 起きたのか、ジーク? 見張りの交代にはまだ早いぞ?」
焚き火にあたりながら、オリヴィエが身体を起こした僕の方へと振り向き、口端を上げる。
「むにゃ? どうかなさったのですか?」
「何でも無い、ヨハン。まだ寝ていていい」
寝ぼけ眼を擦る弟のような(見た目は妹のような)ヨハンに柔らかい笑みを浮かべるオリヴィエ、どこか既視感のある光景だ。
僕たちは今、アルカディア大陸中部あたりの荒野で野宿をしていた。
聖教会連合軍司令部のある北部ヨークシンへと戻る途中だ。
僕を乗せて飛んでいた神鳥ブリュンヒルデは、後ろに顔を突っ込んで鳥らしく眠っている。
オリヴィエたちの乗ってきたペガサスは、圧倒的強者の僕たちの側にいるから安心しきっているのか、横になって眠っていた。
ピサロとの戦いを終え、期せずしてアルカディア大陸南部旧ピサロ領を解放した。
解放された旧ピサロ領は、現地住民ダークエルフたちが中心となる共和国へと生まれ変わった。
その新国家を影で統治するという名目上、聖騎士団副団長アリスたち3名は現地に残ることになった。
事実上聖騎士引退だが、連絡が取れるようになった聖教会総本山から許可はされている。
いずれ正式に発表されることだろう。
カーミラは暗黒大陸にある自身の居城へと戻った。
魔王軍13席の内2席も裏切りと断罪によって除籍されたからだ。
他にも解放奴隷についてもあり、緊急会議が必要とのことだった。
僕はまだ共にいたかったが、お互いの責任を果たすために一時的に別れた。
僕たちはきっといつでも再会できるそう信じている。
そして、運命的な邂逅を果たしたアルセーヌ・ド・シュヴァリエ、彼らはフランボワーズ王国へと戻った。
本当に不思議な男だった。
僕の中で知らない何かが揺さぶられるかのようだった。
僕は男色の気はないのだけどなぁ?
もう一つ驚いたこと、フランボワーズ王国の王女、まさか僕の婚約者だったとは。
でも、相手はまだ子供の上に、アルセーヌに惚れ込んでいる。
このまま有耶無耶になってほしいけど、政治が関わってくるから僕にはよくわからない。
みんなそれぞれ自分たちの戻るべき場所に帰っている。
僕たちも同じだ。
聖騎士である以上、連合軍と合流しなければならない。
アルカディア独立戦争は、急展開で終結することになったからだ。
聖教会の最高司令官聖騎士団団長ライネスを失い、シルバニアの街を奪い返されたこと。
大国であるフランボワーズ王国が聖教会の敵側陣営に加わったこと。
何より、聖教会圏諸国で蝗害が起こり、記録的な大不作の年になること。
それ故に、嫌戦ムードが世論で高まり、これ以上の泥沼化を避けたいこと。
その結果、聖教会総本山はアルカディア連邦軍との講和に応じた。
アルカディア連邦を聖教会圏からの独立を認めたということになる。
聖教会が圧倒的な武力による制圧を諦め、一方的な講和条約のない戦争終結は史上初めてのことだ。
これは、聖教会の事実上の敗戦だった。
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