第2話 -警報-

 お昼休憩を取り佐々木さんと品出しの作業を終えたその瞬間だった。


店にいた全員の携帯端末の警報音が鳴り響く。


「「「「地震です。大きな揺れに注意してください!」」」」


この倉庫にまで外からの警告音がこだまするように聞こえる。


「こりゃ、やばいのきそうだねぇ」


「そうですね 一旦こか────」


すると鈍い爆音が響き渡り次第に地鳴りと共に大きな揺れが言葉を遮る。


立っていられない。


陳列された物が落ちていく。

大きな音を立てながら倉庫内の荷物が次々に落ちてくる。


幸い物が落ちたりしてこない入口付近にいたため下敷きになることは無かったが、直すのに骨が折れそうな有様になっていた。


地震が発生してから1分程経った頃、揺れは収まった。


「今回のはでかかったですね……一旦避難誘導? ですか」


「そうだねぇ……」


二人は立ち上がり売り場へと戻る。

そこでは、商品棚の下敷きになった人を救助している人達や建物の外へとお客さんを避難誘導している同僚の姿があった。

するとこちらを見つけて女性が走ってくる。


「あ! いたいた! 白縫さんと佐々木さん、無事で良かった。2人とも倉庫に行ってたから心配しましたよ!」


この娘は5歳年下の高校生だ。この店でアルバイトをしている夜空 沙雪(よぞら さゆき)。黒髪のツヤっとしたショートカットの娘で、こんな状況下で人が多い中、二人の心配をしてくれる良い子だ。


とりあえず、誰が無事でそうでないかを知る必要がある。


「夜空さんも無事で良かった。今ってどういう状況ですか?」


「今、店長が避難指示を出してるので皆で対応してるところですよ」


こういう時の対応が速くて実に頼もしい店長だ。


「それじゃあ、俺たちも手伝おうかぁ」


「はい!」


そこで商品売り場へと行きお客さん達と自分達の避難を進めることとなった。


一通りお客さんの避難を終えたところで再び皆の携帯端末が鳴り響く。


<緊急避難警報発令 緊急避難警報発令 住民のみなさんは直ちに安全な場所へと避難してください>


「?!、今度は何なんだ」


「津波ですかね?」


だが、この警報はとても不自然だ。津波だったら高台へ避難してください等の文言があるはずなのに、この警報は理由がなく、ただの緊急避難警報だった。


それに……個々の近くに海はない。


その時「うわああああああああああ」と尋常ならざる悲鳴が店の向かいの住宅地付近から聞こえてきた。その場にいた人たちはは、静かになり動揺を隠せずにいた。


誰も動かず一体何が起きたのか脳内で処理しきれずに、その場に立ちすくんでいる。


あの叫びは緊急性が高い感じだ。

今の地震でなにかあったのかもしれない。


仕方がない……放っておいて手遅れだったなんて気持ちが悪い。


悲鳴のした方へと一緒にいた佐々木と夜空も釣られるかのように向かった。


現場へと到着した3人がそこで目にしたのは、さっきまで避難していたはずのお客さんが、この世のものとは思えない造形の生物に腹など体の至るところを貫かれていた姿だった。


「え……」


「なにこれ────」


3人は、目の前で一体何が起きているの理解できないでいる。


「た……たすけ……」


助けを呼ぶ声は、無慈悲に静寂の中に飲み込まれていった。


呆気にとられていた三人をよそに、体長が4mはあろう細長い人型の化け物は、イカやタコの軟体動物のように伸びた手を柔らかそうにしならせている。


そして、鋭い指先を動かし、突き刺した人を頭から腹まで大きく開いた口で、「ああああ」などと不気味な鳴き声を発しながらその人を捕食した。


補食し終えた人型の軟体動物は、2つある黄色い目のようなものをこちらへ向け奇妙な鳴き声で威嚇した。


「やばいやばいやばい! ふたりとも逃げるよ?!」


佐々木の言葉に我に返り走る。


だが少し走ったところで、今朝の頭痛が頭を締め付けてきた。そのせいでその場にうずくまってしまうのだった。


「……へ、神……」


何を言っているのか聞き取れない。だけど今はそれどころじゃない。後ろからは得体のしれない人食いの化け物が追いかけてくる。


「白縫さん!!」


「白縫君しっかりしろ!どうした?!」


「っう 頭痛が……」


「早く!! やつが来ます! 早く逃げましょ!!」


動けない。霞がかったような意識の中で誰かが囁いてる音が微かに聞こえてくる。


「ああああああああああああああ!!!」


謎の細い軟体動物は、奇妙な鳴き声を発しながら迫る。


佐々木は、一旦冷静になり考えた。


「夜空さん先逃げて!」


投げやりではない至って冷静に言ったのだった。


「そんな、お二人を残して自分だけなんて出来ません!」


だが、そんな夜空を強い口調で返す佐々木だった。


「いいから!! 幸いあの軟体動物の動きは遅い、このことを早く店の皆に知らせて!!」


「……わかりました。しっかりと来てくださいね」


「ああ わかってるさ」

「絶対に振り向かず走るんだよ?さあ 走って!!」


佐々木の「走って!」の言葉の後に夜空は、この事態を一刻も早く店の皆に伝えるためにお店へと全力で走り出した。

すると、逃げる夜空を視認した軟体動物は本能でも刺激されたのか、それまで緩慢だった動きが早くなる。


「ははは、マジっすかぁ……白縫君持ち上げるよ! どうみても走ってく夜空に向かっていってる感じみたいだ」


「すみ……ません……」


「なぁに困ったときはお互い様だって、それより頑張って走るよ?」


一直線に得体のしれない化け物が走ってくる。


夜空とは違う咆哮ににげた二人だったが、謎の生物はこちらを選んだようだ。


動きが加速した軟体動物が大きく柔らかそうな足で地面を蹴り二人に向かって鋭い指先を向けくる。


「……ここで終わるのか?」


その瞬間、はっきりと聞き取れた


「社(やしろ)へ! こい!!」


また風が吹き去るかのように謎の声と頭痛が一瞬で消えた。

その軟体動物の鋭い指先の攻撃から逃れるため横へと佐々木と共に飛んだ。


「うわああ!」


軟体動物の指先は硬いコンクリートの地面に突き刺さり地面から指先を抜けずにいる。

そのすきをついて、あの人食いの化け物の視界から逃げる。


全力で二人は走った。


文字にならないような奇声を発する化け物を背に二人は民家の物陰へと身を隠す。そして、気づかれないようそっと化け物が追ってこないか確認する。


「とくに追ってくる気配はないねぇ。地面に指を突き刺したまま動かないでいるよ」


「とりあえず大丈夫そうですね。さっきは突き飛ばしたりしてすみません」


「大丈夫、大丈夫、咄嗟の判断に助けられたよ。ところで頭痛は、収まったのかな?」


「はい、ご迷惑おかけしました」


「ははは、まったくだよぉ。まあでも、これで借りは返したからね。それじゃ走るよ!」


「この時くらい仕事のことは忘れましょ」


あの生物は一体なんだったのか、いきなり発令された緊急避難警報と関わりがあるのか、疑問はたくさんあるが店へと向うため、その場を後にした。

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