第3話 -災いの影-

 店まで戻ってきて先に戻って店長や他の従業員に事情を話している夜空と合流した。


「よかった!ふたりとも無事だったんだね! 本当によかった……」


夜空が涙を浮かべながら二人の無事を喜んでいる。ここまでの表情をされてしまうとなんだかとても申し訳ない気持ちになるな……


「すみません、お二人には迷惑をかけました」


「まあ、無事に戻ってこれたし良いってことさぁ」


三人は無事に戻れたことに安堵しているところへ「ごほん!」っと咳払いをしながら店長が二人の会話を遮った。


「佐々木君……夜空さんから話を聞いたけどとてもじゃないが信じられない。避難勧告が出ているが特になにも起こらないし、それに人を襲う化け物がいて実際に人を食べた……だなんて夢のような話をは信じられないな」


「だから! 本当のことなんですって!!」


夜空の言葉に耳を傾ける気がなく店長は3人の身に起きた話を信用しない。

そこへ佐々木が提案する。


「審議は、ともかく未だ避難勧告が携帯端末を通して流れて来てるんです。とりあえず避難所へと向かってはみるのはどうだうでしょう?」


だが、店長はその提案に渋い顔をしながら答える。


「この大きな地震でも崩れることなく耐えたんだから、ここが安全な場所に決まっているだろう? 幸い食料も飲み物もあるしな。それにさっきの悲鳴は……瓦礫にでも押しつぶされてしまったのだとしたら気の毒だが救急車でも呼ばないと助からない……君たちがショックを受けたのもわかるが嘘はいかんよ嘘は! まあ、ここは一旦おとなしくして置こうじゃないか、我々が出過ぎた事をしてもかえって事態を悪化させるかもしれん」


夜空の説得も虚しく店長は、嘘だと思い込み、「さて早速掃除に取り掛かろう!」と言い従業員達に指示をだそうとした。


確かに先程までの光景を間近で見ない限り言った事を信じろというのは酷な話なのかもしれない。だが、せめてそこは安否確認とかで解散で良い気もする……


これが幻かなにかだったらどんなに気が楽か……非常事態であることをどう伝えるか考えを巡らす。


しかし、悪夢は待っていてはくれない。


平日の月曜日、晴天が不気味なほどに静かな中、ここへと向かってくる者がいた。


他の従業員の一人がその存在に気づいた。「あれは……なんだ?」そいつを見た人達は皆思考回路が停止したかのごとく固まった。


すると不気味なサイレンが街中に鳴り響き、鳥肌が立つような不気味さと不快感を増長させる。


こちらへと向かってくる者は、人ではなかった。


さっき見たやつとは違う……生物の全体像は黒いが人の形をしてはいた。


先程のなにかと同様に手が長く胴体は黒い煙のようなもので隠れており指先には1本の長い指揮棒のような鋭い爪が伸びていた。


フードのようなぼろい布で覆われた顔を覗こうとしようものなら、そこに吸い込まれてしまうようなほどの黒い何かで覆われている。


そもそも、歩いているのか浮遊しているのかさえ分からない。


まるで死神……


その造形とサイレンが皆を恐怖の呑底に追いやるのには十分だった。


遅すぎた。

皆がその恐怖を感じ取った時には既にやつはすぐそこまで走ってきていた。


誰もが逃げる行動を取る。


ある者は悲鳴をあげ、ある者は我先にと逃げ惑う。

この時、何が起こったのかよくわからない。


記憶しているのは、逃げ送れた何人かの命はその長い爪によって無残にも引き裂かれ、もうこの世にはいないであろうということだけだった。


その場にいた誰もが散り散りになって逃げていく。

普段走り慣れていない足を無理矢理にでも動かし走り続けた。


走り疲れた頃、一緒になって逃げていた佐々木が提案する。


「白縫君……ここで一旦休もう! どうやら、やつは俺たちを追ってきてはいないようだ」


3階建ての家で1Fに反対側の道路へと通り抜けのできる駐車場ペースがある民家へと駆け込んでいた。


そこにいたのは自分を含めて三人、あの時そばにいた、夜空と佐々木だけだった。


三人は壁によりかかり、項垂れる。


「あれは、一体なんなの……」


震える声で夜空が言った。


「なんなんだろうねぇ、最初に見たやつとはまったく違う形をしていた。それにJアラートまで鳴ったということはこの騒動って全国的に起きてるかもしれないのかな」


対して冷静に淡々と考えをめぐらす佐々木。


「……」


野生の動物に襲われる事件など過去をさかのぼれば珍しい話ではない。


だが、山から降りてきた熊や猪とは明らかに違う……

それに加えて、あの生物は一匹どころか二匹も現れ、それぞれが違う種類のもののように見えた。


もっと多い種類と数が出歩いているなんてことも最悪考えなくちゃいけないかな。


夜空が、最近新しく発売された携帯端末iFunを取り出す。


「……今のような出来事がニュースとして取り上げられてるみたいですね」


携帯を取り出して確認する。


案の定どのニュース記事も人を襲う謎の生物が突如現れ死傷者が多数出ていることや緊急避難勧告が発令されたことであった。


Jアラートがでた事を知らせる記事や報道ばかりが目立っていた。

そして一番驚いたのは、あの地震が全国規模で起きていたということだ。


「あの大きな揺れって……9都道府県が震源みたいですね」


「地震大国だからって9地点同時に地震が起きるのは何かに呪われでもしてそうですね……」


夜空の一言でふと今日一日起きた出来事がフラッシュバックした。


強い頭痛に襲われる、幻聴が聞こえてくる、大規模な地震が起きる、目の前で人が捕食される。


そんな不運と悲惨な出来事が立て続けに起きているのだ。


考えだした途端に重い荷物を体全体で支えているかのような疲れがのしかかってくる。


「あの謎の生物は、震源地に近いところほど目撃情報も多いみたいだねぇ」


「震源地らへんの9都道府県は今、厳重警戒態勢を敷いて謎の生物の駆除をしてるって書いてありますから指定の避難所へ行ったほうが良さそうですね。私達は……ここからだと日之崎高校ですね」


避難場所を検索する夜空。


日之崎高校は、日之崎市立の高校で市の地図で言うところだと南側に位置している。


現在いる場所からその高校までは歩いて40分はかかるような距離だ。


もちろん電車等や公共交通機関を使えるような状況でもない中安全に向かうというのはとてもむずかしいだろう。


それに9都道府県を中心に謎の生物の目撃が相次いでるなどと言われている中、南側へと向かうのは少しリスクが高いかもしれない。


最悪、こんな異常事態の中で避難所としての機能をしているかも不明だ。


だが、もしかしたら出動した自衛隊や警官が防衛しているところに避難できる可能性もある。


メリットとデメリットを考えどちらが良いかを選択した。


そして意を決して切り出したのだった。


「危ないけど、避難場所まで行ってみませんか?」


二人は、注目する。


今ここで立ち止まっていたとしても事態が好転する保証などない。ここから出る出ないは、勇気があるかないかの話になってくるのだ。


そして考えているような姿勢をとって佐々木が最初に発言をした。


「俺は、その提案に賛成かなぁ……何日もここにいるんだとしたら水も食料もなにもないからね」


続いて夜空も賛同する。


「私も賛成です! ここは、まだ大丈夫ですけど……今後も安全だなんて保証はないですし、なら危険を犯しても行くだけの価値はありますね」


「よっし! 意見は一致した! じゃあ、決まりはしたけど、どう安全に移動するかだねぇ」


方針が決まり、どのようにして安全に移動できるかの方法を提案しあった。

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