「あんのバカがっ」


 ガラスを殴りつけたステラが、ドバドバと血を流すガンマを見て頭を抱える。

 今回の祭り、アイツがどうしても出たいっつってアルファとベータもうるせぇから出してやったってのにッ、案の定約束破りやがった!だから俺は反対だったんだ!


「どうしますボス?」


「チッ、……どうしようもねぇ。ああなったアイツは死ぬまで止まらねぇからな。決着がついたらバレる前に回収しろ」


「了解」


 ステラはドカッとソファに腰掛け、悲鳴を上げる観客達を無視、ノエルに一撃入れたバカな妹を睨む。



 ……アルファ、ベータ、ガンマの3人は、俺が俺の遺伝子情報から作り出した人造人間、所謂ホムンクルスだ。


 最初は作業効率を上げるためにアルファとベータを作り出したが、俺達3人の知識欲はそれだけに留まらなかった。



 ――もし自分達の遺伝子で、戦闘特化型のホムンクルスを作った場合、そいつはいったいどこまで強くなるのか。



 俺達は知りたくなっちまった。それで出来たのがガンマだ。あいつは2人に比べても異質。

 人の形をしてはいるが、ガンマの身体を構成する細胞の8割がモンスターのハイブリッド。C4を生身で食らったって傷一つつかねぇ。

 痛覚と恐怖心も消した。戦闘においては邪魔だからな。


 そして1番重要なのがあのだ。

 アルファもベータも、元が俺なのにcellに覚醒することはなかった。Cellの覚醒条件は欲という感情だ。2人の欲は俺に根差しちまってる。魔素の変質はオリジナルである俺に集約されちまうんだろう。


 だから俺達は、ガンマのボディと脳構造を多感なガキの状態で止め、成長型のホムンクルスとして生み出した。


 結果どうだ?あいつは覚醒した。あんときゃ嬉しかったぜ、この実験結果を誰にも言えねぇことだけがショックだな。

 フレデリックの奴は勘づいてるっぽいけどな。2度と作るなって圧力かけてきやがったし。ウゼェ。



 まぁいいさ、今はあいつのデータを取るだけでも楽しいからな。

 ガンマの覚醒したcellも、俺と同じ魔眼に類する能力だった。遺伝子が人格形成と感情に影響を与えるってのがこれで証明出来ただろ。


 あいつのcellは、



 Ruler支配系――『Σκάμανδρος καθρέφτηςスカマンドロスの姿見



 俺やリアン、ベルナルムと同じ、歴とした『神性』持ちだ。

 俺の遺伝子使ってんだから、それくらいしてもらわねぇと困る。



 そして今、そんな俺達の妹が、王の一角の喉笛を裂いた。

 客の前で腹を抉り取ったのはいただけねぇが、合理的ではある。100歩譲って許してやる。


 ガンマは死ぬ。再生力は高ぇが、あの傷は無理だ。この後各国に詰められるだろうが、まぁ知らぬ存ぜぬを通しゃこの実験は明るみに出ねぇ。


 ボディのストックも複数あるからな。今まで通り記憶データだけ移して面前に出してやりゃ文句も言えねぇだろ。

 非人道的だなんだってのは猿どもでやってろ。





「ククッ、……おらガンマ、俺に迷惑かけるんだ。せめて頂上で踏ん反り返ってる王に、人間様の怖さ見せてから死ね」





 傲慢のステラ。



 その幼い顔に貼り付く獰猛な笑みこそ、彼女が大罪の1柱であるという、何よりの証拠なのだ。



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