そんな彼女の姿を、ノエルは静かに見つめる。

 ……腹を刺した後念入りに抉り込んだ。手加減はしなかった。なのについてるの、少しの傷と血痕だけ。……人間の硬さじゃない。


「楽しいねぇ!楽しいねぇノエノエ!」


「……ん」


 最後の樹蛇が共倒れし、形を崩しボトボトと降る中。白雷を纏うガンマがくるくると踊る。


「ノエノエの力面白いね!色々出来る!」


「ノエルは凄いから」


「ね!」


「ん」


 ダンッ!と地面に手を着いたガンマを中心に半透明の花畑が広がり、瞬く間に闘技場を呑み込む。


「『食べちゃ――


 しかし、トン、と足元の土を蹴ったノエルに合わせ、一瞬にして花が枯れた。


 刹那花弁で姿を眩まし接近していたガンマが双剣を振り被る。


 半透明の剣線を横目に飛び退いたノエルは、囮の植人花を生み出しながらガンマが生み出す人型植物を屠る。

 ……もう既に、ガンマの体術はノエルと互角。加えて作る武器が半透明で見え辛い。接近戦は不利。なんか硬いからこっちの攻撃が通らない。

 ……あんまやりたくなかったけど、――


「っわ⁉︎」


 今まで受けとカウンターに徹していたノエルの動きが、一気に攻撃的なものに変わる。


 緩急をつけ一瞬で肉薄してきたノエルの動きに、ガンマの反応が遅れたコンマ数秒。

 振り抜いた掌に杭を生み出すと同時に、即応しようとするガンマの四肢を樹根が拘束、一瞬で千切り飛ばされるも、そのラグがあれば充分。



 ――内側から壊そう。



「『自縛纏血』」



 ノエルは少しだけ血の滲むガンマの腹の傷口から、無理やり体内に木の杭を捻じ込んだ。


「ゴっフッっ⁉︎」


 一気に皮膚を貫き、臓腑を縫い、傷口に根を張ってゆく悍ましい植物。


 ノエルは悪いと思いながら、傷口にビックリするガンマを見つめる。

 ……当然の結果だ。ガンマは強い。凄く。能力の理解も早いし、自分が得意な近接戦と合わせて使ってた。頭も良い。

 ……けど、所詮まだガキ。駆け引きも戦闘技術もお粗末。


 まぁ、良い実験になった。能力のコピーじゃ、ノエルには勝てない。


 ――決着に飛び退こうとするノエル。


 ――息を呑む司会者。


 目を覆う観客。


 準備しようと担架を呼ぶ救急隊員。


 ハンター達。



 ――その誰もが、試合の終了を悟った。



 ……ただ1人、ガンマ本人を除いて。




「これケルちゃんにやったやつだ!」




「「「「「「……え?」」」」」」



「……は?」



 ……眼前に飛び散る夥しい量の血飛沫に、ノエルは瞠目する。


 ……こいつ、何を、


 腹部に刺さった杭を、根の張った肉と内臓ごと引き千切り捨てたガンマ。

 ごっそりと空いた穴からは、致死量を超える血液が零れ、重要器官が露出してしまっている。


 その異常な光景は、ノエルを困惑させるには充分なモノだった。


「ゔぁハハっ!」

「グ、ゥッ⁉︎」



 一閃。



 反応の遅れたノエルの白く細い首が、鮮血を吹いた。


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