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「わ、これ美味しそ〜」


「黒百合あんた、デザートばっかり、太るで?」


「僕太らない体質だから」


「……」


「ハハハ、パーティだ。好きな物を食え」


 灰音を睨みつける紗命を笑う紅。

 彼女達がソファに座り、紅が煙草に火をつける。


 その時、


「ん?」「何?」


 いきなり背もたれに誰かが座った。


 派手なスーツにイカつい巨体。イカついタトゥー。


「初めましてだな、お嬢さん達?」


「誰?」「……フゥ〜」


「……あんさんは、ベルナルムはん?」


「おお、女の方は知ってくれてんのか!嬉しいねぇ」


 ベルナルムは無理矢理作った笑顔でガシガシと髪を描き、大きく息を吐く。


「何か要?」


「いやな、ちょっとした提案なんだが、」


「?、ッ……」


 太い指が紗命の顎を持ち上げ、無理矢理上を向かせた。



「…………何のつもりや?」



 紗命がニッコリと微笑み、その額にビキビキと青筋が走ってゆく。


「お前ら、俺の女にならねぇか?」


「はぁ?」「おまわりさーん!」「(トントン)」


「あの男はお前らを置いてここまで来たんだろ?酷っでぇ奴だよなぁ?それにモンスターのガキを連れ回す変態ときた。

 幼女趣味にはうんざりしてんじゃねぇのか?」


「……」「……」「……フゥ〜」


 ベルナルムの頬が獰猛に、下品に歪む。



「それによ、俺ならあんな男より、……よっぽど良い思いさせてやれるぜ?」



 瞬間テーブルが吹き飛び、グラスが砕け散る。


 突然響き渡る破壊音に、全員の目がそこに集中した。


「ヒュ〜♪」


 首を狙った紗命の水槍。灰音の回し蹴り。紅の持つ雷を纏ったアイスピック。急所を狙った、躊躇いのない一撃。


 ……その全てが、ベルナルムを包む金色の膜に阻まれていた。


「ますます気に入ったぜ――


 笑うベルナルム


 ――の眼球に紅がアイスピックを振り抜く。

 回転、灰音がボディに拳を突き刺す。


「「――ッ」」


 甲高い音を立て弾かれると同時に、2人が押し飛ばされた。

 隙に紗命が心臓へ向けて毒棘を放つ。超高速回転し火花を散らすそれを、


「ふんッ」

「っ」


 しかしベルナルムは叩き壊し、続けて出される毒の盾を貫き、紗命に手を伸ばす。


「あ?……」


 瞬間紗命の姿が消え、数秒後遠方に現れた。……瞬間移動、ではないな。何かいるな。ベルナルムはテーブルを踏み潰し前に出る。


 地面に降ろされた紗命は、姿を表す彼をチラリと見る。


「……おおきに。朧はん」


「貸し1で」


「ふふっ」


 冷めた視線をベルナルムに向ける朧が携帯を弄る。


 そこにバキバキに苛立つ灰音と、タバコを吐き捨てる紅、小走りの葵獅と亜門が近づいてくる。


「な、何してんだ紗命?」


「あの蛆が桐将のこと貶したんよぉ」


「殺そ、ねぇ、殺そ」


 抑えきれなくなった紗命と灰音の底冷えするようなドロドロとした殺気に、会場内が静まり返り1人また1人と倒れてゆく。


 そこでカリフォルニアチームのサムとカマエルも走ってくる。


「っ何してんだベルナルム‼︎」


「落ち着いてください」


 事を起こしたであろう男に向かって叫ぶも、


「黙ってろカスども」


 当の彼は聞く耳を持たない。


「いいぜおら来いよ日本ども‼︎力づくで組み伏せてやる」


 一触即発。


 ベルナルムは一切の警戒なく1歩を踏み出す。

 絶対の自信。絶対の力。阻むものは壊し殺すだけ。


 俺の前に、障害はいらない。



「クヒヒっ、俺はよォ、ッ人のもんを奪うのが大好きなn――



 ――雷光



 ガギャバギィンッッッ



 轟音。テーブル椅子飯あらゆる物が吹き飛び、会場の電気が明滅、

 雷獣とベルナルムが互いにスライドし、止まる。


 庭で遊んでいた4ロリ達も、騒ぎを聞きつけ走ってくる。惨状を見たステラが急いでイヤカムに触れた。


 雷装を解いた東条が立ち上がる。


「……何してんだお前?」


 その赤い片眼は収縮し、髪は魔力に逆立っている。誰が見ても、


 ――ブチギレ。


 彼は避難を始める来賓達など完全無視し、武装。


 ベルナルムは破壊された鎧を修復し、見下したように笑う。


「ただのナンパだろ?そんなに怒んなよ?」


「イキんなよ雑魚が。アメリカの程度が知れるな」


「俺が?雑魚?っガハハハハッ!去勢された割にはよく吠えるじゃねぇか!ああ⁉︎」


「……あぁ、何でお前のことが鬱陶しくて堪らないのか分かった。そのデケェ面だ。目障りなんだよ。ぶらぶらぶらぶら、ブルドッグのキンタマみてぇに目に付くんだ」


 ――刹那、静止の声など無視し、両者同時に地を蹴った。


 周囲にはまだ一般人が多数、お年寄り、女子供、2人の衝突を浴びれば余波だけで死んでしまう可能性すらある。

 しかし誰も止めることが出来ない、間に合わない。


 最悪の未来が訪れる


 ――直前



「ストォップ!」



「「――ッッ」」


 割り込んだガブリエーレが、2人の拳をいなし、滑らせるようにして反対側に流した。

 その絶技に誰もが驚く。

 彼のチームメイトが1番驚く。


「まったく、キリっちも落ち着け‼︎あんたも‼︎明日試合なんだから、そこで決着つけなさいよ‼︎」


「「黙れ」」


「あぅぅっ⁉︎」


 再び魔力を滾らせる2人だが、


 瞬間同時に顔を上げ同じ方向を見た。


 東条とガブリエーレは彼を注視し、ベルナルムが舌打ちする。


「そうだ。それ以上はやめろ」


 腕を組むステラ。



 その後ろに立つ、ガレオン。



 呼び出された彼に、強者達の目が吸い寄せられる。


 一時の膠着状態の後、


「チィッ」


 魔力を引っ込めたベルナルムは、最後東条に向かって不敵に笑い、出口へと姿を消す。


「あいだっ⁉︎何で⁉︎」


「……」


 ガブリエーレをぶん殴った東条も、漆黒を解き、反対側の扉から出ていくのだった。

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