首脳会談




 8チームによるトーナメントの初戦も終わり、パーク内にはまだ熱気の余韻が立ち込めている。


 そんな中、


 運営本部・大会議室の円卓にて。


「︎まずは、我が国の呼びかけに応えてくれた、その誠意に感謝する。ありがとう」


 立ち上がったアメリカ大統領・フレデリックに拍手が送られる。


 巨大な円卓の椅子に並ぶのは、集まった54カ国の首相達、そのホログラム。


 パークに来てからの間、まざまざと技術力の差を見せつけられている諸外国は、最早アメリカの言葉を聞く以外にないことを悟っていた。


「早速だが、現状、自国に起きていることを確認し合っておこうと思うのだが、いかがか?」


 皆が同意する。


「うむ。では我が国アメリカから説明しよう。と言っても、このパークで見てもらったことが全てなのだがな。

 我が国は既に、市街地からモンスターを一掃している。魔素を利用した技術革新も起こしている」


「あのGATEには驚かされた。まさか本当にワームホールの生成を可能にするとは」


「全てはこの変わってしまった世界で、再び互いに手を取り合うためだ。ゆくゆくは各国に1台配置したいと考えている」


「「「おお」」」


「まぁそれは追々だ。そも国家間の大規模な軍隊遠征は危険がすぎる。

 配置には、大陸を越え国を渡れるだけの個人戦力が必要不可欠だ。

 そこで聞きたい。貴国らに、その偉業を成せるだけの個人はいるか?」


 その質問に、首相達が一斉に1人を見る。

 視線の先は、勿論新参者の彼女。


「……ふぅ」


 見美は1つ息を吐き、立ち上がった。


「初めまして。日本国総理大臣、Mimi Gadoと申します。

 我が国の国土は、不幸にも大規模な魔素災害に襲われました。

 皆様既に、我が国に出回っている動画等でご存知かとは思いますが、先日トーナメントに出場していた『ノエル』がその原因です。彼女は人ではありません。途方もない力を持ったモンスターです」


 首相達が難しい顔をして唸る。

 その瞳の奥に見えるのは、隠し用のない恐怖。

 まるで嘗ての自分達を見ているようだ。そんな風に見美は思った。


「ご安心を。彼女が日本に齎した災害は、彼女が意図したものではありません。生まれ落ちた事による偶発的なものです。

 今では力を制御できるようになり、世界を回ることを楽しみに生きている、……ちょっと自由すぎる少女ですよ」


「……しかし見美殿、貴国も『ノエル』と、彼とは仲違いをしているだろう?それでなぜ安心できる?あの力を目の当たりにした後では、そう楽観視出来るものではないぞ」


「彼らとの間に亀裂が生まれたのは、全面的にこちらに非があります。

 ノエルはまだ生まれたばかり、その精神性は幼い子供です。我々は強引すぎた。結果、保護者とも呼べる彼の怒りを買いました」


「そう、そこだ、あの男は何だ?」


「ああ、山1つを吹き飛ばすなど、目を疑ったぞ」


「彼はノエルが信頼を置く、ただ1人の人間です。長い間共に旅をして生まれた絆は、何者にも割くことは出来ない。

 もし無理矢理あの2人を引き離そうとしたら、我が国の二の舞になるとお考えください」


 ホロスクリーンに映し出される、京都の夕焼けに照らされる、山の様に積まれた屍と、その上に座る血濡れの東条。


 あの時の光景を目にした首相達から、息を呑む声が漏れた。


 毅然と立つ見美を目に、フレデリックは(……お人好しが)と小さく笑う。


「しかし先にも述べたように、彼らは手の付けられない殺戮者ではありません。話も通じますし、利害が一致すれば強力な味方になります。なので現状心配することではありません。

 ……それに、今の我々には彼らの脅威を二の次にできるだけの武力があります」


「……と言うと?」


「先の質問に戻りましょう。

 我が国には、個人でここカリフォルニアまで渡れるであろう者が、少なくとも6人は存在します。

 皆さん予想はついていると思いますが、予選のビデオに映っている特使、あの全員がそれだけの実力を有していると思ってもらって構いません」


「……彼らはアメリカで言うハンターだろう?国家直属というわけではない。大事なのは軍部だ。貴国の軍隊に」


「お答えすることは出来ません」


「「「……」」」


 優しく微笑んだ見美に、他の首相達も気圧され黙ってしまう。


 彼女は表には出さないよう、ほんの少しだけ得意げに席に着いた。

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