3−5
ボトボトと龍頭が落下する中、段々と晴れてゆく砂煙に観客達は息を呑む。
再び顔を覗かせた青空が、闘技場にスポットライトを落とした。
荒れ果てグツグツと煮え滾る地面に咲く、一輪の大きなひまわり。
「……」
その下から顔を出したノエルは、自身の爛れた左腕を見て、次いで砂煙の先に目を細める。
……浮かび上がる、2つの人型のシルエット。
一方は膝を折り、一方は見下ろしている。
ノエルはそんな影を見て、無言で熱を吸収させたひまわりの顔を向けた。
「……ケホっ、あぁ痛い」
砂煙から出てきたのは、もう嫌だと泣き言を漏らすリアン。……つまり、そういうことだ。
砂煙が完全に晴れた先。
跪くのは、頭から胸にかけてゴッソリと吹き飛ばされた、小型『フィツィロ』の残骸。
立とうとしているが、伝達機能が欠損したせいで身体を動かせないでいる。
……頭部に情報を詰めすぎたか。よう改善。
ノエルは左腕を完治させ、蒸気を上げる錫杖を引き抜くリアンに目を向ける。
「……何した?」
「んー?何も?」
錫杖をキューブに戻して、平然とすっとぼけるリアン。
に、笑みと腕を向けるノエル。
そんな彼女を見たリアンは、
「あー降参!」
そそくさと両腕を万歳した。
「え?」
「参った参った。おじさんの負け!」
「……えー」
気の削がれたノエルは、不承不承と腕を下ろす。ブーイングが響く中審査員を見るも、肩をすくめられる。
逆に彼を知る者は、まぁそうだろうなと苦笑するのだった。
「……消化不良」
「おじさんはもうお腹いっぱいだよ。年かなぁ」
試合終了のブザー。
リアンはローブをキューブに戻し、プクーと膨れるノエルに苦笑する。
「強いねーノエルちゃん。色々聞いてるけど、僕は応援してるよ」
「……。『王』?」
「うんうん、色々ね」
小声でウィンクするリアンに、ノエルは理解する。
オリビア程の上位ハンターでも知らなかったことを、この男は知らされている。やはりアメリカNo.2、伊達じゃない。……そうだ、オリビアと言えば。
「リアン、オリビアの師匠?」
「え?何で?」
「女の勘」
バフや奇襲を入念に準備する抜け目の無さ。
攻撃と布石を同時に配置してゆく、常に先を考えた戦法。
ここぞという時にゴリ押し出来る根性。
似ているのだ、彼女と。
「凄いね、そこまで分かっちゃうか」
驚くリアンにノエルは確信した。
「公にはしてないから、しー、ね?僕みたいのに師事してたって知られたら、彼女のブランドに傷ついちゃうし」
「それ、オリビア怒りそう」
「あ、これオリビアちゃんにもしー、ね?頼むよ?」
「ん。良い動きだった。綺麗。好き」
「これはこれは、有難いお言葉で」
恭しくお辞儀するリアンに、ノエルは手を差し出す。
「楽しかた」
「あはは、何よりだよ。……左腕、大丈夫かい?」
「ん?ん」
「これ、いらないかもだけど」
握手した際に渡された銀色の塗り薬に、ノエルは目をパチクリする。
「じゃ、バイバイ。僕もまだ滞在するし、もしパークで娘に会ったらよくしてあげてちょーだい」
「ん。分かた。バイバイ」
「は〜い」
後ろ手を振り去ってゆくリアンという男に、ノエルは素直に感心するのだった。
「……良い奴」
「っおじさん何で最後までやらなかったのさぁ⁉︎」
「ごめんごめんっ、オリビアちゃん、ちょっと、痛い痛い」
戻ったリアンが、選手席まで降りて来たオリビアに首根っこを掴まれグワングワンされている一方、
ノエルは『フィツィロ』に手を突っ込み、土に還す。
(……情報無し。頭部飛ばされたの痛い)
そもそも小型版とは言え、コレの硬度は巨神となんら遜色ないのだ。それを一撃で吹き飛ばすとは、想定外。
「お疲れさん」
「お疲れ」
「良い試合だった」
「……ん」
「何だ難しい顔して」
ベンチに戻ったノエルは、さっさと荷物を纏め出す。
「ゴーレム改造したい。マサ付き合って」
「へいへい。2人は?この後どうする?」
「俺は適当にパーク回ってます」
「俺は技術エリアに行く。あそこの擬似戦闘ARとやらは凄いぞ。面白い。朧もどうだ?」
「あ、大丈夫です」
「おけ、じゃまたなんかあったら連絡くれ」
ショボン、と荷物を纏め出す葵獅と返事に手を上げる朧を後に、東条はノエルに手を引かれベンチを出る。
「あのおっさん強いなぁ。No.2だってな」
「ん。オリビアの師匠だって」
「マジで⁉︎性格ま反対じゃん」
東条は笑いながら、自分の手を引くノエルの腕を捲る。
「腕は?大丈夫か?」
「だいじょ……ぶじゃない。見て。治して」
「ん?でも、いつも通りツルツルのプニプニだぞ?」
「治して!」
「わぁったわぁった」
満足げなノエルであった。
【後書き】
リクエストcell:魔物の素材から武器を創造する能力。
なかなか気に入ってしまったせいで濃いキャラが誕生してしまいました。
面白かったです。
ノエルかわよ。
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