55話



 ――「ガブリエル!おま、どこ行ってたんだよ⁉︎」


「ごめんごめん!ちょっとカッコつけたくてバー行ってた」


「バカなの?」


「バカなんだろ」


 チームメイトの3人は、行方不明になっていた彼を見つけ一安心する。


「明日は本番なんだぞ!作戦練ろうって言ったろ⁉︎」


「うちの州全員グレード2なのよ?アンタの我儘でここまで来ちゃったけど、本来棄権が妥当だったんだからね?分かってるのそこ?ねぇ」


「分かってなさそうだぞ」


「分かってる分かってる!全員俺がぶっ飛ば、す……ぁ〜」


 いつものように短絡的な返事をしようとしたガブリエーレが、そこで言い淀んだことに3人も顔を見合わせる。


「どうしたのよ?」


「……あのさ、キリマサトージョーって人知ってる?」


「は?当たり前じゃない。たぶん今1番話題になってる人よ」


「トーナメントには出るの?」


「確かハワイだな。あそこからは全員日本人が出るって聞いてる」


「へぇ」


 ……決勝トーナメントまで進めば、自動的にこのテーマパークに来れるから戦ってたんだけど。


「……ヒヒっ」


 彼は思い出し、全身の産毛を逆立てる。


 ……ドアを開けた時、目を合わせた時、久しぶりに感じた、



 死の気配。



 初めて白いドラゴンと相対した時以来の、心臓を鷲掴みにされたような衝撃。


 ……これは、少しだけ楽しみが増えちゃったな。


 無邪気に頬を緩める彼に、チームメイトが肩を組む。


「何だ何だ、遂にお前も飯以外に興味を持ってくれたか⁉︎」


「っおうともさ!やる気出てきたぜーー!」


「よっしゃそうと決まれば作戦会議だ!」


「その前に腹ごしら」


「「「金ねぇっつってんだろ‼︎」」」


「痛っでぇ⁉︎」


 煌めく夜の街、チームメイトにタコ殴りにされるガブリエーレであった。




 ――ホテルから少し離れた広場、街灯の下で打撃音が連鎖する。


「っ朧、ガブリエーレアルベルティって奴知ってるか?」


「ッ知ってます、よッ。ペンシルベニア代表のですよね」


「あ〜、やッ、ぱり出場者か」


「「――ッ」」


「っ……フゥ。何でですか?あんた他の出場者とか興味なかったでしょ?」


「いや、さっきそこで会ってな」


「……何でそういうこと早く言わないんですか?」


「え?あ、言った方が良かった?」


「……はぁ。別にいいですけど」


 朧はタオルを首にかけ、バンテージを解きながらベンチに座る。


「で、どうでした?」


「……いやなぁ、こんなの、初めて藜に会った時以来かもしれねぇ」


「……?」



「気圧された」



「…………は?」


 東条の口から出た感嘆とも取れる溜息に、朧はバンテージを解くのを止め固まる。


「あんたが?何をバカなこと」


「いやなぁ、俺もびっくりした。この身体になって、もう人間にビビることは無いと思ってたんだけどなぁ」


「詳しく」


「何つーんだろ?……アイツ、俺と同じ臭いがする」


「……映像の中のガブリエーレは、身体部位を変化させていました。獣化系じゃ?」


「身体を変えられる奴の全員が全員、獣化系ってわけじゃないからな」


「……まさか、……王?」


「いや、ノエルとは違う。どっちかというと俺に近いんだよ。何つーか、モンスター寄りの人間的な。んでもそれだけじゃない気もすんだよなぁ、ん〜〜」


「……要領を得ないですけど、興味深いですね」


 立ち上がった朧は唸る東条に水を投げ渡す。


「帰ってノエルにも聞いてみましょう」


「んだな。俺の部屋来いよ」


「じゃあお邪魔します」


「あ、灰音と紗命もいるけど気にす」

「また明日。おやすみなさい」


「え?えちょっと朧君⁉︎」



 颯爽と闇に溶ける朧を、スタコラ追いかける東条であった。

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