15話



「だっはぁああ〜〜」


 漆黒を解いた東条はその場に大の字でぶっ倒れ、終了のゴングと轟く歓声を耳にクツクツと笑う。


「いつつ。……死んだかなあの人」


 雷装で治せてなかった両腕に漆黒を纏わせ、治癒をすること3秒後。


「ダハハっ!帰還!」


 最初と同じ昇降機から、満面の笑みの笠羅祇が迫り上がって来た。

 長髪は解け血と塵に汚れ、鍛え抜かれた細身の肉体は所々焦げている。加えその腹部は、誰が見ても致命傷な程に焼け爛れていた。


 不死身かこの人。呆れる東条は、身体を起こし苦笑する。


「よく生きてましたね?」


「ほざけ、擦り傷だわこんなもボグハッ!」


 東条は血塊を吐き散らす老爺を見て、ああちゃんと致命傷だ、と安心した。


「早く担架に運ばれてください。本当に死んじゃいますよ?」


「待て待て」


 血を拭った笠羅祇は、あたふたする救命医を放って闘技場を駆けて行く。

 全て集め終わりしゃがむ彼の手には、鞘と折れた刀が握られていた。


「……すまん。……俺の力が足りねぇばかりに」


 笠羅祇は懐から出した風呂敷に、鞘と刀を丁寧に包んでゆく。


「……すぐに直してやるからな。少しの辛抱だ」


 東条は笠羅祇に向けていた温かく尊敬に満ちた眼差しを逸らし、戻ってくる彼を迎える。


「……何だ?」


「別に」


 満足げな東条を訝しむも、


「……ぅおっ」


 まぁいい、と笠羅祇は彼の手を両手で握った。


「東条」


「な、何すか」


「感謝する。本当に、楽しかった。長年生きてきたが、これほど楽しい死合は初めてだったっ。感謝するぜ、東条っ」


「……はいはい」


 律儀な武人に、東条も苦笑する。


「それと東条、……俺のために」


「待て待て笠羅祇さん」


 そこまで言った彼を、東条は睨みつける。


「その感謝はいらねぇ。俺もあんたも楽しかった。それで良くねぇか?」


 笠羅祇は一瞬驚くも、納得したような表情で微笑む。


「……フッ、その通りだ。まさか半世紀も年下のガキに諭されるとはな」


「反省してくださいお爺ちゃん」


「ダハハっ!また殺ろう!」


「嫌ですよ」


「ダハハハハ」


 後ろ手を振り去って行く笠羅祇は、


「ハハハ、ハハ、ハ、……――」


 次の瞬間顔面からぶっ倒れ、ピクリとも動かなくなった。



「……た、担架ァアッ⁉︎」



 その日のダイアモンドヘッドには、東条の雄叫びと、救命医の慌ただしい靴音と、観客達の拍手が長く、大きく、響いたのだった。

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