8話
「おつー」
「疲れてないな」
東条はノエルとハイタッチし、再び待機椅子に座る。
初戦だからまぁ頑張ったら楽しめたが、これ以上は勘弁だ。つまらなすぎる。
「そもそも強化使えてる奴少なすぎんだろ?こいつら普段モンスターと戦ってんだよな?自殺志願者の集まりか?」
「ん。手加減大変」
あれが手加減だったかどうかは置いといて。パッと見回しただけでも、まともに魔力を纏えているのは数人。
今この空間には100人程の参加者、要するにハンターがいるとして、その数はあまりにも少ない。雑魚程強化が大事だと言うのに。
東条はシャツを肩に掛け溜息を吐く。
「あと何試合ヤりゃ上に行けんだ?」
「聞ーてくる」
トテトテと走ってゆくノエルが、レフェリーと話し合い、そして帰ってくる。
……なぜかワナワナと目を見開いて。
「ど、どした?」
「……5試合だって」
「カーマジかよ。まぁ仕方ねぇ、夜には帰れんだ」
「違う」
「んぁ?」
「……1日1試合。今日の分はもう終わった」
「……あ?」
東条はポカン、と口を開け上を見る。
えっと?1日1試合で、今日の分が終わったってことは?……このお遊びのために、あと4回もここに通わなきゃいけない、ってことぉ?
……あ、無理。
「やめようノエル。時間の無駄だ」
オリビアさんには悪いが、こんなこと続けるくらいならビーチで綺麗な貝殻集める方がまだ有意義だ。
さっさと立ち上がった東条を、しかしノエルが引き止める。
「嘘だろ?お前楽しいのこれ?」
「違う。ここのルールはFree-for-all.」
「?だから?」
「今日で終わらせられる」
ホケー、と考えていた東条は次の瞬間、
「ああ!」
と手を叩きシャツを投げ捨てズカズカと試合中のリングへと上がってゆく。
「何だテメぶゲェ⁉︎」「失せぼフォァ⁉︎」
試合中の2人を殴り倒し、片腕に漆黒を纏わせリングを囲うアクリル板に触れる。
東条の奇行に、何だ何だと周囲が騒がしくなり始めた。
――その瞬間、衝撃波を受けた強化アクリル板がグニャァア⁉︎と変形し、インパクトを中心に爆散した。
乾いた破壊音とキラキラと舞う破片に、会場全体が静かになる。
そこへレフェリーのマイクを奪ったノエルが上がってくる。
「あーあー、テステス。マイクチェックワンツーワンツーファッキュー。――Listen」
傷だらけの男に担がれた小さな少女へと、その場の全ての視線が集中した。
「こんちゃ、クソつまんない試合の途中ごめ。ノエルとマサはさっさとアッパーに行きたい。だからお前らに提案」
ノエルのハンターカードから、会場の賭博システムに金が振り込まれる。
計上モニターに映し出されたその額、およそ7500万$。日本円にしてざっと100億。見たことのない0の数に、会場に居合わせた全ての人間の目が飛び出る。
「これからノエル達2人は、この場の全てのハンターを相手にする。ノエル達を倒した人間がこの金を総取り」
会場のボルテージが一気に上がってゆくの肌に感じる。
止めようとする黒服やレフェリーなど、興奮した観客に押さえつけられ気絶させられている。
「オーディエンスは危ないからリングに入って。参加者はリングの外。それと、ノエル達の生死は問わない。勝てばいい」
至る所で武器が抜かれ、銃の安全装置が外され、魔力が湧き立つ。VIPの指示により、モニターに緊急イベントの文字とオッズが表示された。
ノエルが地面に降り、ニヤリと笑う。
「じゃ、……Let's Party」
いきなり轟く銃声を合図とし、前代未聞の大乱闘が始まった。
――ボロボロになった床や天井。
全壊したバーカウンター。
途切れ途切れにノイズを鳴らすスピーカー。
チカチカと瀕死のネオンが灯る会場。
その中心に、最初は無かった歪で小高い山が形成されていた。
呻き声を発するソレは、半殺しにされ気絶するハンター達の成れの果てである。
この惨状を作り出した2人は、既に増えた金を回収して帰宅済み。
観客やVIPは先の光景を興奮気味に話し合い、心底満足気に出口から出てゆく。
時間にして約15分。
この日、戦える者がいなくなったことによりハワイのロウワーランクが解体、そして禁則事項に『乱入、乱闘禁止』の文字が加筆。
アメリカに新たな伝説が生まれた。
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