4話



 とりあえず海で一泳ぎしてきた東条はシャワーを浴び、ノエルを起こし顔を洗い、

 thanks for youと書き置きしたメモに、適当に500$くらいを挟んで遅めの朝食へと向かった。


 道中、


「Oh my, it's cute! Good morning, Mr. and Princess」


「Good morning, madam.ほら、ノエル」


「……ん」


 寝ぼけ眼を擦りフラフラと歩くノエルの手を引きながら、東条はすれ違う宿泊者達と挨拶を交わす。


 お人形みたいな絶世の美女が、毎日ホテル内を歩き回っているのだ。ノエルは今やこのホテルのちょっとした有名人である。

 主に愛でられるタイプの。


「Welcome, Mr. Tojo, Ms. Noel. I will show you to your seat」


「thank you」


 レストランへ入り、窓際のソファ席へと案内される。

 テーブルの上には、既に色とりどりのプレートが並べられていた。


 ――「……(もむもむ)」


「……」


 東条は片手に英単語帳を開きながら、ワッフルを齧る。


 ノエルの前のプレートが半分程無くなったあたりで、彼女のふにゃふにゃの目が徐々に開き始めた。


「……。マサ、おはよ」


「おう、おはよーさん」


 身体を伸ばしたノエルに合わせ、東条も単語帳を閉じる。


「……今日マサ早起き」


「寒すぎたんだよ。お前だろ16℃まで下げたの?」


「暑かた」


「そん時は毛布の一枚でも掛けてくれ」


「分かた」


 コク、と頷くノエルがオムレツを一口で頬張る。


「……そろそろ昼夜逆転直さねぇとな。生活に支障が出始めてる」


「んー(もっちゃもっちゃ)」


「てか予選の試合まだなんか?オリビアさんからも連絡来ないし」


「んー(ごくん)」


 あれから今日で3日だが、対戦相手が見つからないのか、組合からもオリビアからもまだ連絡が来ていなかった。


 東条は手元でハンター証を遊ばせながら、運ばれてきたミルクティーに口を付ける。


「今日どうするよ?そろそろ引きこもり生活も飽きてきたし」


「登録者とやるオンラインゲーム楽しい」


「そりゃお前は楽しいだろうよ⁉︎

 テーブルゲームでお前に勝てる奴なんていないしっ、FPSとRTSはアリスの独壇場じゃねぇか!

 それにオープンワールドで平和に暮らしてた俺の仲間達をっ、せっかく作った家ごとバズーカで吹き飛ばしやがって‼︎あいつら可哀想に、トラウマだよ絶対っ」


 100を超える砲口が拠点を囲むあの光景は、しばらく忘れられそうにない。

 思い出して吹き出すノエルを東条が睨みつける。


「じゃー、狩行く?」


「ん〜、ぁあぃや〜、アメリカのモンスター弱すぎてつまんねぇんだよ」


「ね」


「じゃあ新大陸行きましょうとはならねぇし。今バカンス中なのに」


「ね」


「……」


「……登録者集める?」


「やだ!」


 東条がヤダヤダと駄々をこねていた、そんな時、


「ギャンブル、いや、いっそ風俗のはしごでもしてみる……ん?」


「来た」


 2人のハンター証に1通の着信が入った。


 書かれている内容は予想通り、開催時刻と場所。だいぶ急だが、問題ない。


 2人はニヤリと笑い合い、すぐに席を立った。

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