第36話



 ガラスの向こうに避難した支部長が、マイクに手をつけた。


『一応聞くが、武器と防具はいるか?』


「「No」」


『……分かった。ではこれより特別実技試験を始める』


 食後の腹ごなしには丁度いい。


 2人はグラウンドに入り、ぶらぶらと身体を伸ばした。


 とそこで、



「Hello〜!」


「……」「……」


 2人の前に、1人の女性が現れる。


 180㎝程の高い身長。

 焦茶色のウェーブロングヘアに、日に焼けた健康的な肌。

 パッチリとしたライトグリーンの瞳と弾ける様な笑顔も相まって、とても活発的な女性に見える。


 身に着ける装備はジャケットと、動き易さを重視したパンツスタイルのボトムス。ブーツ。武器は、無し。


 女性はスキップしながら2人に近づこうとするも、次の瞬間、


「ワオ!」


 東条の出した漆黒の壁にぶち当たって止まる。


「面白い!何これ⁉︎」


 ペタペタと壁を触る女性から目を逸らし、2人は支部長を見る。


『試験時間は10分。内容は敵の無力化、及び対象の護衛。……つまり試験時間内、攻撃から彼女を守ることが合格の必須条件だ』


「……何て?」


「10分間、あいつを守り抜けって」


「りょーかい」



『ふむふむ』『試験時間は10分。内容は敵の無力化、及び対象の護衛。彼女を守り抜いたら合格』『翻訳感謝』『なる』『……結構キツくね?』『それな』『受からせる気ないとか?』『まぁカオナシとノエルのために行われる試験だし、』『洗礼みたいなもんか』



「うぉ」

「てことで宜しくねハンサムボーイ!私はオリビア、Oliviaオリビア Harmoniaハルモニア!あなたは?」


 女性が東条の手を取り、ブンブンと振る。


「ぉうぉう、桐将東条です」


「OKキリマサ!ちゃんとお姉さんを守ってね?」


「あぁ、はい」


 次いで彼女はノエルを抱きしめ、高い高いする。


「わ」

「ん〜〜可愛すぎるぅぅ!お姫様、あなたの名前は?」


「ノエル」


「ノエル!名前も可愛いっ。もう大好き!」「ぅむ」


 豊満な胸に抱きしめられるノエルを、東条はつまらなそうに見る。


「……まだすか?」


「?何だい、嫉妬かい?」


「ああはい、嫉妬っすね」


 東条はジト目でノエルを、……否、ノエルを透過して、その先にある双丘を見る。


 キョトン、とするオリビアがその視線を追うと、


 ……自分の胸に行き着く。


 瞬間、


「アっハハハ⁉︎」


 爆笑。


 腹を抱えるオリビア、の谷間をガン見する東条。

 ……いや、そこにおっぱいがあったら見るだろ。女がいるとかいないとかそういう話じゃない。おっぱいは、見るだろ。


「あははっ……ふぅ、君も男だねぇ」


 笑い涙を拭くオリビアは、東条の顎を軽く人差し指の腹で弾く。


「でも嫌いじゃない。それに君の身体、正直好みだ。野生的で凄く……良い」

「っ……」


 東条はペロリ、と舌舐めずりするオリビアのエロさに思わず息を呑む。

 久しく触れていなかった、大人の女のエロさ。破壊力が凄まじい。


 しかしそんなオリビアの裾を、ノエルが引っ張る。


「ん?どうしたんだいノエル?」


「こいつ婚約者いる」


「え⁉︎」


「……はい。います」


 少し残念そうに頷き目を逸らす東条を、ノエルはジトーを見る。


 色気を引っ込めたオリビアはそんな彼に苦笑する。


「何だい煮え切らないね」


 とそんな3人のやり取りを見ていた支部長が、肘をついてマイクをコンコン、と叩いた。


『……もう良いかな?』


「ああハハっ、忘れてた!2人共準備は?」


「……はい。はい」「ん」


「だってさ!」


 支部長は眉間を揉み、オリビアをジト睨む。


『オリビア、今は一応試験中だ。真面目に頼む』


「分かってるって。ほら、早く始めよ!」


『……はぁ』


 辟易する支部長、を他所に、


 オリビアはやる気なさげな東条にソソっ、と寄り耳打ちする。


「……揉みたいかい?(ボソ)」


「っ⁉︎ラブ⁉︎(ボソ)」


 強調された胸に東条の視線が吸い込まれる。

 今にも弾け飛びそうなボタンの、何と窮屈そうなことか‼︎


 オリビアは血走ったバカの目を笑い、ケツを叩いた。


「なら頑張りな」



「――ゥオスッッ‼︎」「……」



『始め』



 瞬間全方位からウルフの群れが飛び出し、3人と1機に襲い掛かった。



『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……』『……1回死なねぇかな』『よく言った』

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