第29話



 ――途中もう1度アラモアナへ行き大量に買い物をした2人は、現在規格外に広い自室で寛いでいた。


「ノエルフルーツ食う?何かいっぱい置いてあるぞ」


「罠かも」


「何のだよ」


 ここはハワイ最高級ホテルの1つ、ハレクラニ、そのロイヤルスイートルーム。

 今まで良いホテルには泊まってきたが、ここまでのはなかった気がする。デカすぎて2人じゃ持て余すってのが正直な感想だ。


 バスローブを羽織りフルーツバスケットを脇に抱えた東条は、ソファにドカッと座りパイナプルを投げる。


 パシッ、小さい手がパイナップルを掴む。

 ブカブカのバスローブを羽織り、バカデカいベッドのド真ん中に座るノエルは、片手でパソコンをカタカタと操作しながらパイナップルをバリボリ食う。


「……紗命と灰音に連絡してやった方が良いかな、」


 東条は貰ったスマホを弄りながらノエルを見る。


「しても良いけど、そのスマホで話した内容は全て聞かれてると思った方がいい。スマホだけじゃない。この部屋で起きたことは全て傍受されてると考えるのが自然」


「まーそうだよなー。……痴話喧嘩聞かれるのやだし、また今度にするか。

 お前は良いの?」


「ノエルにはもう隠すもの無い」


「無敵の人じゃん」


 東条は笑い、バスケットを置いて彼女の隣に座る。


「さっきから何やってんだ?」


「ノエル達の作ったホームページにアクセスしようしてる、けど、」


「出来ないのか?」


「……セキリュティが固い。即座にコード書き換えられる。……アリス、腕上げてる」


「ハハッ、流石俺らのエンジニアだぜ」


 悔しそうに、しかし嬉しそうに笑うノエルは、100数度目のセキリュティ突破音と再ブロック音を耳にキーボードから指を離す。


「無理、負けた」


「おお、お前が負けを認めるとは」


 ノエルがエンターを押すと、呼び出し音が鳴る。


 ……数秒のコールの後、



『……誰、』



 懐かしい声がスピーカーから響いた。


「ぅおお有栖‼︎久しぶりだなオイ‼︎」


『……???!!?……⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎』


「お久、アリス」


『ノ、ノエルちゃんに、……東条くん?』


「ん」


 ――数秒のポーズ。


 ……再起動。


『はぁああああああああああああああ⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎』


「うるっさ」


「切る」


『待って待ってごめんごめん待って⁉︎』


「ん。元気?」


『っ私は元気だけど、2人は⁉︎』


 とそこでスピーカーの奥からドタドタと音が聞こえてくる。


「ん。元気」


「バリ元気」


『それは良かっあ、ゆまさ、』


『ノエル様⁉︎ノエル様ですか⁉︎』


 荒い息を吐いたユマの声が響く。


「ん。ユマ」


「っはい!」


「よく頑張った。アリスを守ってくれてありがと。あと、ノエルを守ろうとしてくれてありがと」


『っっっ―――――』


「……ユマ?」


『あーー、ユマさん気絶したよ』


「だははっ」「ん。ほっといて良いよ」


『ねえこれビデオ通話に出来ないの?』


「ん。ちょい待ち、はい」


 画面に映るアリスの顔。


『っ……、ひ、久しぶり』


「何だお前また泣いてたのか?」


『はっ、はぁ⁉︎泣いてないし!……東条くん髪型変えた?』


「いや、明日切る。今日警察に逮捕されたりして忙しかったから。あ、今俺達ハレクラニのロイヤルスイートに泊まってんだぜ!じゃ〜ん」


「じゃーん」


『あーね、警察ね、わーすご、……ん?……ちょっと待って情報量が、』


「どした?」


『2人とも今はどこに?』


「「ハワイ!」」


『いつ着いたの?』


「「今日!」」


『で、何だって?』


「ハンバーガー食ったんだけど、金無くて土下座したらバイトすることになって、」


「バカが3人来たからマサが半殺しにして病院送りにした。そしたら逮捕された。ほら、手錠貰った」


『……』


「でも何か釈放されて、ハンター組合に行ったらノエルがキレて数人失神させた」


「そしてら良いホテル使って良いって言われた」


「あれお前のおかげか!」


「ん!」


「「yeah〜」」


 グータッチするバカ2人に、アリスの目が死ぬ。元から死んでた目が更に死ぬ。


『…………情報量、エグいて』


「あ、アリスアリス、」


 天を仰ぐ彼女を、ノエルが呼ぶ。


『……何?』


「ノエル達の正体たぶんアメリカにバレてる。ばちくそ警戒されてるから、たぶん全ての電波傍受されてる」


『……へ?』


「アリスの存在バレた」


『――ッッ情ッ報ッ量ォオッ‼︎』『キャン⁉︎』


 尻をぶっ叩かれたユマが再び気絶する。


『何しとくれとんじゃ貴様ァアア⁉︎』


「……だってアリスと話したかったから、」


「あー悲しませたー、ノエル悲しませたー!」


『ッぐぅ……私が悪いみたいにっ。……ご、ごめんねノエ』


「嘘」


『ッッブァカがぁあ‼︎』


 ガンガンとパソコンにヘッドバッドをかますアリスに、2人は笑い転げる。


「あひひっ、ふぅ、でも実際大丈夫なのか?この情報で脅されたり」


『そーだよそーだよ‼︎』


「どうせ知られるし、だったら先手を打っとく。もしアリスに、アリスの守っているシステムに指1本でも触れたら、ノエルとマサはお前らを敵と見做す。

 手始めにペンタゴンにウイルス流し込んで情報抜き取って国中にばら撒いてやる」


「んじゃ俺ホワイトハウス爆破する!」


『そーだそーだばら撒くぞ!爆破するぞ!』


 聞いているだろう見えない相手に向かって脅しを掛けまくる3人。

 しかしこの3人なら、ガチでやりそうで怖いのもまた事実。


「てことでアリス、仕事の話」


『へいへい、そんなことだろうと思ったよーだ。何かねお姫様?』


「明日から始める。こっちの周波数とチューニングしといて。どうせ日本も他国と連絡つける手段持ってる筈。それ使って」


『うぃ。見美さんに聞いてみる。あ、そう言えば見美さん総理大臣になったよ』


「マジ⁉︎」「おー」


『ねー、びっくり』


「今の日本どうよ?出る時結構減らしたけど」


『っそうだよ私まだ許してないからね東条くん!』


「すまんて、だから先に謝ったじゃん」


『誰がテロ起こして虐殺して国外逃亡するなんて思うの⁉︎』


「俺だぞ?」


『説得力が凄い⁉︎』


 謎の説得力に負ける有栖。


「んじゃバイバイ」


『え⁉︎もう⁉︎ドライすぎない⁉︎』


「話せたじゃん」


『そうだけどさ!』


「寝落ちもちもちする?」


『っ、そ、それはちょっと恥ずかし』


「俺とする?」


『黙れ』


「(シュン)……」


『……そーいえば東条くん、彼女さんのこと聞かないね、良いの?』


「あー、……どうせ俺のこと追ってきてくれてるんじゃねぇの?」


『え、すご』


「ハッハッハ」


『紗命さんは昨日、灰音さんは今日旅立ったよ』


「……何かタイミング合いすぎてね?こわ」


「ね」


「あーあと、この情報外に出したら俺マジであんたら全員殺すんで、そこんとこ宜しく。聞いてますよねアメリカさん」


『……でも凄いね東条くん』


 腕を振る東条に、有栖が感嘆する。


「何が?」


『正直私だったら、1年も恋人と連絡取れなかったら、たぶん病む』


「ん〜、そりゃお前はな。そうだろ」


『何その私は弱いみたいなっ、大抵の女の子皆そうでしょ!』


「いやちゃうちゃう」


 怒る彼女を、東条は笑って否定する。


「俺はあいつらのこと分かってるつもりだし、あいつらも俺という人間を分かってくれてる。俺はその上で行動してるつもりだよ。

 ……ま、もしそれであいつらが他の男に靡いたりしたら、それは全て俺の責任だな。……あんま考えたくねぇけどな。ハハっ」


 その隠れた覚悟に、有栖も少し驚く。


『……ちぇ、カッコいいじゃん』


「ククっ、当たり前だろ?俺は別に鈍感系主人公じゃねぇんだ。

 もしお前と付き合ってたら、俺はお前を1人にしねぇよ」


『っ、そういうとこだよ!』


「マサ今日も外人に告白されそうになってた」


『はぁあ⁉︎会って1日だよね⁉︎』


「はぁ〜〜モテる男は大変だよ」


『はい報告です』


「え、ちょま」


『バイバイノエル!また明日電話しよ!』


「ん。またね」


「ちょ、有栖さん?有栖さん?」


 パタン


「……」

「……」


 東条はパソコンを閉じたノエルをジッと見つめ、


「……まいっか」


 とベッドに倒れる。



「……元気だったな。あいつ」


「ん。良かった」


「だな」


「……」


「……んだよ」


 ノソノソと腹の上に乗り寝っ転がるノエルに、首を上げる。


「……」


「クハハっ、……嫉妬か?」


「……マサはノエルの物」


「可愛いとこあんじゃねぇか」


 東条は上目遣いで睨む彼女の頭を撫でる。

 たまに見せるこういう顔が、正直なところ堪らなく好きなのだ。絶対に言わないが。


 見つめるノエルの瞳が縦に割れ出し、……


「……見られてるぞ?」


「……」


 胸の上に跨ったノエルは、挑発的に、扇情的に、……ニヤリ、と笑い、



「……見せつけてやる?」



 バスローブから肩をはだけさせた。


「……」


 東条の赤い蛇眼が一瞬収縮するが、彼は笑い身体を起こしノエルを押し倒す。


「……ませすぎだ、発情期か?」


 ベッドの上に髪を散らしたノエルも、東条の笑みを見て笑う。


「……ふふっ」「……くくっ」


 東条は立ち上がり、ベッドから降りる。


「どこ行く?」


「ちょっとジム行ってくる。一緒に来るか?」


「んー。いい」


「オッケ」


 扉の閉まる音を聞き、





「……」


 ノエルは枕に顔からぶっ倒れた。

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