第18話



 京都、東条邸宅。

 午後15時。


 ふわふわのぬいぐるみの中、1人の女の子が目を覚ます。


「……ふぁ〜〜、……ログボログボ、」


 数種類のゲームを起動し、ログインボーナスを受け取ってから、顔を洗い、ノソノソとリビングに向かう。


「あら、おはようございます有栖様」


「おぁよ〜」


「1人で起きられて偉いです」


「わ〜い今日も褒められた〜。いただきふぁーす」


「はーい」


 有栖はボッサボサの髪のまま卓に着き、ジャストなタイミングで作られた遅めのモーニングを食べる。


 最近は自由気ままにプータロー生活を謳歌している彼女。

 有り余る貯金を使い潰し、日々自堕落を極めていた。


 本来パソコン周辺機器以外に金を使わない性格が功を奏し、あと数10年はこのままでも大丈夫な計算である。


「ゆまさん今日予定ある〜?デートしよ?」


 上を向き、自分の髪を整えているユマを見る。


「嬉しいお誘いですが、申し訳ありません」


「えーフられたー」


「本日は国に呼ばれていまして。見美首相と会ってきます」


「わー見美さん!最近全然会えないから寂しいよ」


 ユマ自身本当はめちゃくちゃ行きたくないのだが、現提督を腹パンしてしまった手前、多少の招集には応じるようにしているのだ。


 ユマはモソモソとトーストを齧る有栖を撫でる。


「彼女は今誰よりも忙しいですからね。それにバカな前首相と違って話の通じる方ですし、私も好感が持てます」


「……お父さんなんだからあんま言っちゃダメだよ?」


「彼女も笑っていましたよ」


(手遅れだった)


 2人を会わせるのが何だか怖くて仕方ない。私も行こうかな。などとと彼女が考えていると、髪のケアが終わる。


「それでは、私は行きますので。食べ終わったお皿はそのままで構いません。クーラーつけたまま眠らないように気をつけて下さいね?風邪ひいてしまいます」


「は〜い」


「では行ってきます」


「いっへらっはーい」


 リビングから出てゆくユマを見送り、有栖はテレビをつける。


 流れてくるニュースはどれも平和なものばかり。……1年前とは大違いだ。


「あー……またムカついてきた」


 有栖は彼を見送った日のことを思い出す。


 あの日私は東条くんを嬉々として送り出した。その結果どうだ?東条くんは国家に宣戦布告した上に、駆けつけた軍隊を大虐殺したのだ。


 信じられる?テロだよテロ。中継を見ていた時驚きすぎて顎外れたもん。バカでしょほんと!


 それに何よりヤバいのが、私が背中押したみたいになってることね‼︎やりやがったよあの脳筋ゴリラ!絶対危なくなったら私のせいにする気だったんだ!怖くて眠れなかったんだからね⁉︎


「……はぁ。ごっさま」


 彼の映らなくなったテレビを消し、立ち上がる。


 あんなことをされ、勝手にいなくなった彼を、それでも待ち続けている自分がいる。



 ……ほんと、便利な女ですよ。


「『プルルル、プルルル』あーポポタマ氏ー」


『どうしましたタアンチゴリラ氏?』


「今から他のクランに喧嘩売りに行こうぜ〜」


『別にいいですガ、……クランと言えバ、最近グレートオールドワンが幅をきかせてきていまス』


「あーあの名前だけ大層なクランか」


『他のクランハ怖がって手を出せないでまス。オデ達デザイアが粛清するべきかト』


「いいねー。戦争だ戦争」


 自室に戻り、ヘッドセットをつけ、PCを起動。ディスコードを個人から全体に切り替える。


『どしたリーダー?』『こんな平日の昼間に招集すんなよ』『俺今会社なんだけど』『会社でゲームすんなw』『どうしたんですか?』『これ幹部チャット?大事な話?』『こんにちワ』


「あのさ、グレートオールドワンと戦争しない?」


『⁉︎』『良いね』『⁉︎』『草』『いきなりw』『良いですね』『戦争でス』


「OK。この後向こうのクランリーダーに宣戦布告叩きつけてくるから、他の皆にも伝えといて。たぶん今月中の週末になると思う」


『おけ』『り』『り』『おけー』『了解です』『おけ』『リ』


「とりま今日の17時から強化遠征行くから。来れる人来て」


『おけ』『仕事してる場合じゃねぇ!』『授業受けてる場合じゃねぇ!』『草』『俺ニート勝ち確定期』『働いてもろて』『オデも今日バイトなイんで行けまス』


「んじゃま、そういうことで。私は今からログインするから、来れる人ボイチャ来なー」


『おは〜』


『おはようございます』


『おはようございまス』


『私は17時からで』『同じく』『俺も』『くっそーー早退しようかな』


「ハハハ、ヒキニートになりたくなかったら学校は行きなー」


『ヒキニート本人からのお言葉ですよ』


『これは重い。そして俺にも刺さる』


『ヒキニートも才能でス』


『出た全肯定ポポタマ氏w』『我らが癒し』『そういやこの前オフ会したんだよな?どうだった』『楽しかった』


『楽しかったですよ』


『うン』


『楽しかった』『ブラックサンダーさんがマイク話さなかったね』『笑った』『リーダーも1回くらいオフ来れば?楽しいよ?私みたいな女性も結構いるし、』


「あー、私は家から出ると死ぬから」


『マジですか』


『俺より重症じゃねーか』


『ヒキニートの鑑でス』


「まぁ行ってみたい気持ちもあるんだけどね〜、外出るのダルいし、あんま人多いのも好きじゃないし。……ちょっと口固い人じゃないと怖いしね」


『ま、強要はしないよ』『うん、来たくなったら来なー』『何リーダー有名人?』『草』『ヒキニートの有名人草』


『ま、俺たちにはポポタマ氏がついてるからな。いざとなったらその大きな口でガブリよ』


『人間ハ不味いから嫌ですネ』


『ヒェっ』『ヒェッ』『ブラックジョークにも程があるて!』『草』


「あははっ、……まぁ君達とは結成当時からの仲だし、信用してるんだけど」


『キュン』『んだよ照れるじゃねーか』『べ、別にそんなこと言われても嬉しくないんだからね!』


「あそうだ、うちでオフやろうよ!幹部皆で」


『え、良いんですか?』


『行ク』


『おいおい、勝手に家に友達呼んで大丈夫か?親キレるだろ』


『実家前提なの草』『お前と一緒にすんな』『リーダーはヒキニートの中のヒキニートだぞ!』『それだと実家確定じゃん』


「大丈夫だよ。今は私と家政婦さんしかいないし。1人1部屋くらいなら用意できると思うし」


『……?』


『……ん?』


『オデの家も部屋ならいっぱいありまス』


『ポポタマのは部屋というかフロアだろ』『リーダーってもしかしてお金持ちの方?』『待て待て、そんなヒキニートがいてたまるか』『でもヒキニートって私達が言ってるだけだしね。ゲームずっとインしてるから』


「今日家政婦さんに聞いてみるね!」


『お、おう』


『お願いします』


『わーイ』


『はーい』『よろー』『うい』『楽しみ〜』





 後日、邸宅に来たクラン幹部連中が腰を抜かしたのは、また別のお話である。


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