花は散る時が最も美しい

 


 カロンが違和感に動きを止める。何だ?何が


「ッッッ⁉︎」


 ――刹那、背後に感じた気配から全力で飛び退いた。


 ノエルがビシャ、と地面に落ちる。


 ……肩口からもがれた、カロンの腕と一緒に。


「ぅう、ひぐっ、うう、まさ?、マサ?」


 顔を上げたノエルに、黒い影がしゃがむ。


「……ああ。……たく、涙拭けバカ野郎」


 漆黒で作られた指がノエルの涙を拭うと、一瞬にして露は凍り、ハラハラと舞った。


「ぅうっ」


「おっと待て」


 抱きつこうとするノエルを、黒い影は止める。


「触らねぇ方がいい。それにすまねぇな、もう時間もないんだわ。大事なことだけ言うぞ?」


「ぇ、え?」


「俺はじき死ぬ」


「っ⁉︎やだっ、生きてるっ、マサは生きてる‼︎」


「もう意識保つのも限界なんだ。聞け」


「っ……」


「骨は殺す。必ずだ。だけどその後たぶん俺は暴走する。藜には言ってある。あいつとお前で協力して俺を殺せ」


「っ⁉︎何言ってっ」


「どっちみちこれを使った以上、俺の身体は崩壊する。だから街に被害が出る前に俺を止めろ」


「なっ、!」


 立ち上がった黒い影を見て、そこでようやくノエルは気づく。


 自分の座る場所以外の全てが、霜に覆われていることに。


 原因は、間違いなく目の前の漆黒。

 そこから、尋常でない冷気が放出されている。


 そうか、もう呑まれて……。


「っ藜に復元させて貰う!死んでも!」


「たぶんそりゃ無理だな」


 黒い影はカラカラと笑う。


「あいつに言われたよ。

 俺の意志で死を選んだなら、その死を受け入れろってさ。

 その通りだと思うし、まぁ俺も死んだら終わり、それでいい。それが人間だ」


 ノエルはその言葉に絶句する。


「だからよ、……ここでお別れだ。今まで楽しかったぜ」


「ッや、」





「愛してるぜ、ノエル」





 ……俺はノエルに救われた。


 ……人ではない、モンスターのノエルに救われた。


 ……ノエルが隠していた秘密は聞けず仕舞いだったが、まぁそんな大したことじゃぁねぇだろ。


 あぁ、最高の気分だ!


 我が人生に、いっぱいの悔いありってな!!




 東条は最愛の彼女に背を向け、闇の中に身を投げた。

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