17話

 


 ――「さて、……これからどうするか」


「グルメっ子」


「分かった分かった」


 建物の中に入った2人は、シーサーに囲まれながら床に広げた地図を見る。


「今ここだろ?ノエルはどっか寄りたいとこあるか?」


「別に。早く海行きたい」


「まぁそうなるわな」


 特区でもそうだったが、人のいない街というのは案外やる事がない。


「でもなー、俺ら2日で本島出ちまうぞ。迎え来るの19日後なんだけど……」


 誤算だ。当初は生き残った人間のコロニーを回って安全と護送経路の確保をしたり、なんやかんやで時間を食う予定だったのだが、

 まさか人間が1人もいないなんて思わないだろ。


 もっと探せって?だからそれは嫌なんだよ!

 いるもんを助けるのと、いるかもしれないもん助けるのじゃ、掛かる労力の次元が違う。


 探せば探すだけ時間は潰せるが、そうじゃないんだ。


 誰だって空き時間があったら、仕事をするよりどうでもいいクソみたい動画を見て時間を無駄にする方を選ぶだろ?そういう気持ちなのよ。


「最悪泳いで帰るか……」


 確実に余る時間に悩む東条を、しかしノエルはバカらしいと見る。


「余ったら余ったでいいじゃん別に」


「ずっと海いるん?」


「それでもいいし、散歩したり、ぼー、っとしたりすればいい。バカンスなんだからそれでいい」


「2週間以上あるんだぜ?それも飽きるだろ」


「飽きたら飽きたで別にいい。他のことを探してもいいし、自力で帰るでもいい。時間はいくらでもある。その時に考えればいい」


「そりゃまぁ、そうだわな」


 ノエルはヒンヤリとした床に寝っ転がり、ゴロゴロと天井を見る。


「人間は忙しない。絶えず情報に触れてるせいで、何かしてないと落ち着かない身体になってる。スマホばっか触ってるからそうなる」


「耳が痛い」


「……1度情報を手放し、自然の中で過ごしてみてはどうでしょー?新しい自分が見つかるかも知れませんよ?」


「……なんて理想的なキャッチコピーだよ。え、お前沖縄の観光大使やってた?」


「ちょっとだけ」


 得意気にパチをこくノエルに、東条とシーサーは拍手を送る。


「んじゃ今日は本島の境目まで行くか。宮古島には明日入るってことで」


「ん。おけ」


 ゆったりのんびり進もうじゃないか。


 道筋に地図をなぞった東条はしかし、


「ぅお?」


 地図の上に置かれた大きな手に驚いた。


「どした?」


「バフゥ……」


 1番大きく、群れのボスであろうシーサーが見つめてくる。


 瞳に浮かぶのは、……心配?恐怖?それに似た感情。


「ガウワウっ」

「な、なんだ?」


 水着を引っ張られるまま、外に出て来る。


 するとボスシーサーが枝を咥え、地面に何かを描き始めた。


 その行動に他のシーサー達も次々と後に続き、ガリガリと地面に線を引いてゆく。


「……器用だな」


「人?」


「と、これは……シーサー達か?」


「バウッ」


 大勢の人間と、その横に並ぶ大勢のシーサー。

 同じ方向を向いていることから、仲間として認識しあっていたことが伺える。



 しかし気になるのはそこではない。


「……」


 人間の手には武器や魔法が、シーサーの顔は怒りに猛っている。


 周りを炎が囲んでいることから、これは戦を表した絵画なのだろう。


 そして、そんな彼らの武器が、目が向いている方向には、


「……モンスターの大群」


 彼らの数百、数千、いや、数万倍の規模を誇るモンスターの大群が描かれてた。


 その種類に統一性は無く、虫型、獣型、鳥型、植物型、恐竜型に至るまで、ありとあらゆるモンスターがいる。

 中でも恐竜型が多いか。


「……そうか、」


 東条はしゃがんだまま、此方をジッと見つめるボスシーサーに目を合わす。


「負けちまったんだな」


「ワぅ……」


 悲しそうに瞳を伏せたボスはしかし、すぐに怒りの表情を浮かべ枝を恐竜の絵画に突き刺す。


 そして地図を広げ、先ほど東条が指でなぞった位置をバシバシと叩いた。


「ここに親玉がいんのか?」


「のかも」


「ガゥルルルルッ」


 唸るボスが、お座りの姿勢で東条に跪く。

 すると後ろのシーサー達もお座りし、静かに東条を見つめた。


「……どうするよノエル?」


「どうも何も、暇だってぼやいてたのはマサ」


「てことは?」


「構わない」


 東条はニヤリと笑い、拾った枝を絵画に、モンスターの中心にブッ刺した。




「……御礼参りといこうか」




「「「「「「「ガォォォンッッ‼︎」」」」」」」


 シーサー達の雄叫びを背に、2人は獰猛な笑みを浮かべるのだった。

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