16話

 


 ノエルは屋根から飛び降り、東条にジト目を向ける。


「生態系は?」


 ついさっき自分にSDGsを語っていた男は、シーサーに群がられヘラヘラと笑っている。


 東条はモフモフを押し分け、毛玉の塊から脱出した。


「あんなもん、自分達はちゃんと自然のこと考えてます。って主張したいだけの、無責任な人間の自己満足だろ。なので地球を汚し続けるの許して下さい、ってな」


「……マサはもう少し、自分の主義主張に一貫性を持たせた方がいい」


「主義主張なんて時と場合で変わるもんだ。環境を壊して快楽を得られるなら、俺は喜んで地球の敵になる」


「恐ろしく速い掌くるくるドリル。ノエルじゃなきゃ見逃しちゃう」


「念能力、悪者の極意」


「クソロ」


「怒られろ」


「そっちが怒られろ」


 2人はアロサウルスの死骸を食べているシーサーを見ながら、たわいの無い言い合いをする。


「てかあいつら肉食だったのな」


「見た目ライオン」


「性格は犬だけどな」


「犬も肉食う」


「それな」


「「バウ!」」


「お、なんだどうした?」


 2匹のシーサーが焦げた肉の破片を咥え、尻尾を振り駆け寄ってくる。


「くれんのか?」


「バウ!」


「ありがとよ」

「ん」


「「バウ!」」


「……」


「「ヘッヘっ」」


「……ん?」


 ありがとうと受け取るが、シーサーはつぶらな瞳で此方を見たまま動かない。


 食事に戻りな、と笑いかけるとお座りしてしまった。


 東条は悟る。


「……今食えと?」


「バウ!」


 期待の眼差しで自分を見る犬っころ。

 横から聞こえてくるバリボリという咀嚼音。


「お前もうちょっと躊躇えよ」


「案外いける」


 サムズアップするノエル。


「……俺もバカ舌に生まれたかったよ」


「聞き捨てならない。ノエルはグルメっ子」


 隣のガキがなんか言ってるが無視し、東条は自分の漆黒と同じくらい黒い物体を口に放り込んだ。


「訂正しろ。ノエルはグルメっ子」


 おおよそ肉とは思えない音を立てながら、東条は笑う。



「うん。ゲロ不味い」



「「バウ!」」


 嬉しそうに去って行く2匹を見ながら、


「ね、ノエルはグルメっ子」


 彼は必死に笑みを保つのだった。

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