4話

 

 大自然の形をそのまま残し、原生生物達の貴重な住処となっていたヤンバル国立公園。


 今はモンスターの宝庫となっているだろうそこに隣接しているのが、米軍北部施設・ジャングル戦闘訓練センターだ。


「AD」


「――、ピー、ピピ」


 ノエルは生み出したチビゴーレムにカメラを取り付けた。


 2人は破壊した関所を通過し、施設内に侵入する。


 周囲の不規則なトレント群を見れば、この場所でも戦闘が起きていたことが容易に想像出来る。


 施設本部には巨大な根が絡まり、建物そのものがトレントの1部と化していた。


「お邪魔しまーす……」


 苔まみれの自動ドアを手動で開き、中に入る。

 ボロボロの室内はさながら植物園だ。


「誰かいませんかー」


「かー」


 2人は柔らかな草を踏みながら中を探索する。


 面白いのは、生えているトレントがどれも亜熱帯系植物の形になっていることだ。

 広葉樹や色鮮やかな花木が多く、本州で見たものとは植生がまるで違う。


 この屋根ぶち抜いて立っているヤシの木も、恐らくトレントなのだろう。


 気候や地域、場所の特性によって姿形が変わるとは、面白いモンスターだ。


「はい、生存者確認終わり。次どうする?」


 苔むしたソファに腰掛けた東条は、這っているカタツムリを指で突っつく。


「ん、今からジャングルに入るから、手分けしてサバイバルセットの確保」


「いるか?出るのにそんな時間かからねぇだろ?」


「ノエル達は近いうち新大陸に行く。予行練習にはもってこい」


「なる」


 流石ノエル様。余念がない。


「んでサバイバルセットって具体的にはどんなのよ?詳しくは知らんぞ俺」


「ナイフ、水筒と浄水器、着火道具、ハンモック、ファーストエイドキット、エマージェンシーブランケット、とか」


「最後の2つ何?」


「応急セット。防水、暴風、防寒シート。軍基地だし多分ある」


「はぇ〜」


 理由は分かった。……でも気になるのだが、


「着火も、寝床も、シートも、俺の能力で済むじゃん。やっぱいらんくね?」


 俺の能力汎用性高すぎて草。そう得意気になる東条に、しかしノエルは首を振った。


「そんなこと言ったらノエルもcellで水筒作れるし、浄水出来るし、やろうと思えば薬剤も作れるし消毒出来る」


「お前スゲェな」


「でも結局魔素がなければ何も出来ない。全て能力に依存するのは危険。力を温存しなきゃいけない時の為に、現代知識を身に付けておくのは重要」


「うん、もう全部ノエルの言う通りにするわ」


「それでいい」


 へたに疑問を持つな俺。ノエル様が全て正しいんだ。盲目であれ。機械であれ。ノエル様万歳。

 東条は立ち上がり、目の前の神に忠誠を誓う。


「銃火器とかはどうする?」


「んー、どっちでもいい。音デカいしかさばるし効かないからノエルはいらない」


「仰せのままに」


 スタスタ歩いて行く彼女の背中を追い、東条も物資調達を開始した。


 大方の物資はトレントの幹から調達出来た。取り込まれた隊員達のバッグを漁れば、必要な物は大体揃っていたのだ。


 2人はそれぞれ比較的綺麗に形の残っているリュックを引っぺがし、集めた物を入れ、さっさと施設から出るのだった。



「えーと、ジャングルを楽しみつつ南に行くには、……ちょっと真っ直ぐ進んでから左に曲がれば良いのな。コンパスは?」


「バグった」


「もうかよ」


 ノエルの持つコンパスは、既に周囲の魔素にやられメチャクチャに暴れている。


「まだ森入ってねぇのにこれかよ」


「問題ない。距離は覚えたし方位は感覚で分かる」


「流石。道案内任せるわ」


「り」


「ADもちゃんとついてこいよ」


「ピーピピ」


 東条は錆びた鉈を振り回し、蔦を切り飛ばしながらジャングルへと足を踏み入れた。

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