54話

 


 ――「ゴブルァッ」


「チィッ!」

「ヤッベぇ」「死んだなこりゃぁ!」

「黙って走れ!」


 その頃毒島達はというと、遂にゴリラの一匹に見つかり、現在絶賛逃走中であった。


 病院を囲っていた猿から怪しい煙の報告を受けたゴリラは、まず屋上に行った後上層階を見張っていたのだ。


 そこで微かに響いた会話の音で、隠れていた毒島達を見つけ出したというわけだ。


 再び屋上まで戻ってきた一行は、ドアを潜った瞬間左右の壁に身体を張り付ける。

 身体強化を掛け直し、


「二、一「――ッ」」


 ゴリラが出て来るのに合わせ、拾った消化器で左右から殴りつけた。


「ゴ⁉︎ァアッ」

「くっ」「んなっ」


 しかし顔面に直撃するも、圧倒的な力で押し返される。ここで間を開けてしまえば、確実に皆殺しにされる。


「やれッ!」


「オルァ死ねやァ!」

「グッガァアア⁉︎」


 毒島の合図と共に、ドアの上に隠れていた一人が跳躍、ゴリラの片目にナイフを突き立てた。


「ダガッいっつぁあ」


 舎弟はすぐに弾き飛ばされ壁にぶち当たるが、消化器を投げ渡した毒島が間髪入れずにタックルを食らわす。


「ンゴ⁉︎ァアッ」

「グゥっ」


 巨体が浮く程の衝撃にゴリラは転がるも、すぐに立ち上がり毒島をぶん投げドアを破壊した。


 同時にゴリラに向かって放たれる、二本の消化器噴射。


「グルァッ、ゴルァアアッ!」


 鬱陶しい事この上ない目眩しに、イラつくゴリラは腕を振り回す。


 そこで感じる、白い煙の奥から迫る魔力。ゴリラは迎撃しようとし、横から投げつけられたナイフに気を取られた。


「死ッ、ねッ‼︎」

「ゴグっ」


 瞬間、脚に全魔力を集中させた毒島が白煙を裂き、ゴリラの胸に飛び蹴りを叩き込んだ。


 鈍い音を立て吹っ飛ぶゴリラだが、やはりこの程度では意識を刈り取る事もできない。


 空中で体勢を立て直したゴリラは、二足で地を踏み締めようとする。


「……ゴ?」


 が、踏み締めるための地面が、そこには無かった。


 ゴリラが最後に見たのは、屋上から落下する自分を笑い、親指を下に向ける紫頭の人間だった。


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