35話

 


「――っ荷台を守れ!何としても子供達だけは助け出す‼」


 早稲田駅周辺。


「数が多すぎるッ」


 数少ない自衛隊員が、三台の車を守りながら叫ぶ。


「弾も切れます!」


 辺りでは、横転した何台もの装甲車が火を噴き煙を上げる。


「俺達は魔法が使えないんだぶグっ」


 猿共に弄ばれた大量の死体が転がり、血の臭いが鼻を突く。


「――っ」


 トレントの枝、民家の屋根の上、勿論地面にも、見渡す限りを猿が埋め尽くしている。


 車ごと飛ばされた自衛隊や避難民もまた、猿の襲撃に会っていた。


 猿一匹のLvは精々2~3程度。通常の隊員でも対処できる範囲ではあるが、いくら自衛隊と言えども限度がある。


 十数人で五十を超えるモンスターを相手にするなど、自殺行為以外の何者でもない。


「チィっ」


 襲ってくる猿を撃ち殺すが、弾切れの音に舌打ちする。


 現在この場に立っている自衛隊は、AMSCUが七人、普通科が三人、輸送科が二人。


 最初の爆発で殆どが吹き飛ばされたが、やはりAMSCUの方が生存率は高い。


 それでも、この状況を打開するには至らないのが現状なのだが……。



「うぇぇぇえん」「怖い、怖いよぉっ」「おかあさーんっ」「ママぁッ」――


 一ヵ所に固められた三台の車の中では、赤子が泣き、母子が抱き合い、外の戦闘音にひたすら怯えている。


 そしてその中に、彼女、馬場 菫の姿もあった。


「大丈夫、大丈夫よ」


 孤児を抱きしめ、優しくあやす。

 絶望の箱の中、自身に言い聞かせる様に、強く、強く、言葉を放つ。


 今自分が外に出ても、何も好転しないのは目に見えている。

 隊員にも言われたのだ。「もし自分達が道を作ることが出来たら、兎に角車を走らせてくれ」と。


 ハンドルを強く握りしめる彼女は、フロントから見える下卑た猿の顔面を睨みつけた。




「……奴等遊んでやがるな」


 ゲラゲラと笑いながら、他の猿の殺し合いを観戦する猿共。


 一斉に襲ってこず、個々で襲ってくるのが何よりの証拠だ。


 そしてその殺戮ショーを指示しているのが、屋根の上に座る一匹のゴリラ。


「……属性魔法を使える者は何人いる?」


「光と炎の二人です」


 即席で隊長になった彼が、猿を殴り殺し声を張り上げる。


「身体強化を使える者は銃を捨てて一歩前に出ろ!使えない者は俺達の銃を使って援護!炎もだ!光っ、攻撃魔法は使えるか⁉」


「いえ!目眩まし程度です‼」


「ならば合図と同時に最大魔力で発光させろ!その一瞬で車を出す‼」


「「「了解ッ」」」


 躊躇のない返事に、彼は笑う。


 自分の死に場所がここである事くらい、周りで戦う誰もが理解しているだろう。


 この職に就いた時から、いつかこんな日が来る覚悟もしていた。

 思い残す事など何もない。


 ならば最後くらいは、格好つけて散ってやろうじゃないか!


「――ッ足掻けェ‼」

「「「「ォオオオオオオッッッ‼」」」」


「キキィっ」「ウキャキャ」「ギャっギャっ」「ギギャァっ」――



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る