第85話
亜門の真横、ヘリの胴体部を土の柱が貫通している。
「なん「ボルァアッ‼」――っ⁉」
動かなくなったヘリの窓から遠目に見える、地に手をつく三mはある一つ目の巨人。
此方を見るや否や、叫び全力で迫ってきた。
「――っ全員降りろ‼」
考えている暇ではない。
反対側のドアをこじ開け、次々と飛び降りていく。
「急げ‼機体から離れろ――ォッ⁉」
走る彼等の背中を、拳で叩き割られたヘリの爆風が襲った。
生き残った者は咽ながらもすぐに起き上がり、揺らめく炎と砂塵の中に、鉛玉をこれでもかと打ち込む。
連続する銃声と共に響く、金属同士が衝突するような音。
風圧で煙が晴れた後の光景を見て、彼等は瞠目した。
「……魔法か」
巨人の持つ土の盾には、傷の一切がついていなかったのだから。
「ボルァッ‼」
「――っ」
そこから始まったのは、無慈悲なる蹂躙であった。
一人、また一人と、殴り飛ばされ、打ち上げられ、圧殺されていく。
時折銃弾が巨人に命中するが、それでも少し血が出る程度。
そしてその後には必ず殺される。
人間、モンスター、見境なく殺しまわる巨人の隙をついて逃げる者もいるが、その先にはまた別のモンスターがいる。
待つのは等しく、死、のみ。
「――はぁっ、はぁっ」
何とか逃げ回る亜門は、首を回し避難できる場所を懸命に探す。
そこで、
「コゲェェェェッ」
突如現れた、尾から蛇の生えたバカデカい鶏が、大跳躍し大型輸送ヘリの一つを蹴り飛ばした。
物凄い速さで墜落する鉄塊は、煙を上げ森の奥へと消えて行く。
よく見れば、その向こうでは巨大な両生類がヘリの一つに舌を絡ませ揺すっている。
「……地獄か……」
茫然と立ち止まってしまった亜門が、ポツリと零す。
目の前に広がる光景は、疑いようのない地獄だ。
他に形容のしようがない程の、美しいまでの地獄だ。
辺りには血の臭いが充満し、鳴き声と啼き声が響き渡る。
強い物が生き残り、弱い者は死に絶える。
本来あるべき生態系の縮図。
人が忘れた自然の摂理。
あぁ、ここは……
地獄だ。
「――ぶグッ⁉」
亜門の半身を強烈な衝撃が襲う。
ちらりと見えた、地面から伸びる土柱。
(……突き飛ばされたのか)
明滅する思考の中、自分に起きたことを理解する。
そのままゴロゴロと転がり、木にぶつかり止まった。
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