第57話

 


 ――「おはようさん」


「ん、おはよう」


 紗命の挨拶で起きる東条は、欠伸をしながら戦闘服に着替える。


(自分の為に、優しいなぁ)などと思っている東条だが、実のところそんな善意は欠片もない。


 東条の起きる時間を完全に把握している紗命は、彼の寝惚けた顔を見る為だけにこうして毎日通っているのだ。


「はいどーぞ」


「あばばばば」


 地面に飛び下りた東条は、強制的に洗顔されながら歩いていく。


「ぷはっ、水魔法マジ便利よな」


「ふふっ、できた妻やろ?」


「母性に擽られるのは間違いない」


 いつも通り仲睦まじく林を抜けてくる二人に、しかし今日はいつもと違う視線が三つ向けられていた。



 席に着き朝食を手にしたところで、東条は三人が近づいてくるのに気付く。


 若葉の弟子筆頭の三人だ。

 知らない顔というわけではないが、話したこともない上に、何かと殺意を感じるので距離を取っていた。


「おはようございます黄戸菊さん、少々お時間宜しいでしょうか?」


「はい、おはようさん。どないしたん?」


 やけに丁寧な口調で話しかける因幡に、紗命は笑顔で応対する。


 そこで、我関せずを貫いていた東条に、これでもかとガンが飛ばされた。


「彼に話がありまして」


「……え、俺?」


 殺意剥き出しの三つの目にパチクリする。


「そうっす、あんたに決闘を申し込むっす」


「断るっす」


 瞬きも許さぬ一瞬の攻防、一考の余地すらない問答無用の返答。


 今度は三人がパチクリした。


「……なっ」


「テメェッ」


「落ち着け、黄戸菊さんの御前だぞ」


 勝手にワイワイと言い合う彼等を、東条は不審な目で見る。

 いきなり来て決闘などとぬかされれば、そりゃ断るだろう。


「そもそも何で決闘よ?」


「テメェがそれを言うのかッ!」


「だから落ち着けっ!」


 食って掛かるヤンキーを、落ち着いた風体のヤンキーが地面に抑える。もう何が何だかさっぱりだ。


「……まぁいいっす。断られるのは予想してたし」


 因幡の一声で残る二人も立ち上がった。


「俺は因幡 恭介っす」


「……萩 刀祢はぎ とうやだ。ぶっ殺してやる」


荒木 海あらき かい


「あ、東条 桐将です」


 名乗り出したので一応流れに乗っておく。


「では黄戸菊さん、お騒がせしました」


「「お騒がせしました」」


「ええよ~」


 一礼し去って行く彼等を、東条は唖然と見送った。


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