第50話

 

 ――「……落ち着いたか?」


「……ぅん」


 胸から離れた少女の顔は、泣いていたからか、若干赤らんでいる。


「……」


 無言で薬を塗り包帯を巻いていく彼女に、何を話していいかも分からず、なすが儘にされる東条。


 そのまま何分か経ち、



 ――「……私ね、……」


 先に沈黙を破ったのは彼女だった。


「……本当は、他人とかどうでもいいの」


「……」


「……私と、大切な人……私を守ってくれる人がいれば、後はどこで誰が死のうがどうでもいい。


 ……さっき知り合った奴の為に命を懸けるなんて、クソくらえよ。


 ………………でも、私が仲間にした人達は、進んで他人を助けに行く。



 …………正直、きつかったわ。



 ……私以外、皆が光って見える。


 私だけが、間違っているように思えてくる……。


 他人の為に自分をなげうつのが善で、自分の為に他人を利用するのが悪だと、……」


「……そん「そんな時、……桐将が現れたの」


「最初は、邪魔にしかならない奴だったら、傷の悪化に見せかけて殺してやろうと思ったわ」


 (……ヒェっ)


「……でも、違った。面白くて、すぐに皆とも仲良くなって、……何より強かった。


 ……私は、桐将を手に入れる事にしたの。


 ……私の盾として。


 幸い近づくのは簡単だったわ。可愛い女の子にデレデレだったしね、ふふっ」


 (……顔に出てたのか?)


「……桐将といる時は楽しかった。


 一緒に話して、一緒にご飯食べて、一緒に笑って、


 ……不思議と、桐将といる時は心が窮屈じゃなかった」


 (……シンプルにうれしい)


「……何日も桐将と一緒にいてね、……それでね、私気付いたの、……




 あぁ、この人は私と同類なんだ、って」




「……」


「だから、一緒にいて窮屈じゃないんだって。


 それで、もっと桐将が欲しくなった。


 ずっと私の傍で戦って欲しいって思った。


 恋とか愛とか分からないけど、そんなのじゃなくて、私の為に、私の為だけにっ、戦って欲しいって思ったの。


 ……ふふっ、……引いた?」



 ――こちらを見る紗命の目は、狂気に蕩け、口は甘ったるいほどの恋慕に緩んでいた。


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