第16話

 

 ――「ぁははははっ、貴方、なかなかの子悪魔っぷりねっ」


 凛がお腹を抱えて先ほどの光景を笑う。


 丸テーブルの向かい側に座る少女は、パンをチビチビ食べながらすました顔で反論した。


「彼らに慈悲はありません、……服の趣味も悪いとくれば尚更やでぇ」


 自分の着ているモコモコの成金かぶれのような服を睨み、さらに毒を吐く。


 女の武器を使い服を奪った上にいちゃもんをつける少女を見て、同じテーブルを囲む男二人はただ黙々とパンを食べることしかできなかった。


「あたしは月島 凛、よろしくね」


黄戸菊 紗命ことぎく さや申します、よろしゅうお頼申します」


「あ、佐藤 優です、よろしくお願いします」


「……筒香 葵獅だ、よろしく頼む」


 佐藤も自己紹介が始まったので慌てて参加する。


 ある意味怖い人ではあるが、良い人には変わりないのだ。それはあの女の子の笑顔を見れば分かった。


「ところで、黄戸菊さんは京都出身なんですか?」


「紗命でええですよ。……生まれが東京で、育ったのが京都なんです。実は東京弁の方が喋れるんですけど……京都弁、可愛いじゃないですか」


 いきなりはんなり口調を止めた紗命が、花が咲いたように無邪気に笑う。


 大人っぽかったキャラからの急なギャップに、男二人がまたもたじろぐ。


「なははっ、紗命は自分の武器が分かってるねえっ、それと葵、他の女に見惚れてんじゃないよ」


「……すまない」


(……否定はしないのか)


「ふふっ、面白い方達やわぁ」


 ――緊張も解け、雑談が盛り上がる。


「へぇ~、葵はんは総合格闘家なんですか、道理でその筋肉やわぁ」


「こう見えて何度か大会で優勝もしてるのよ?」


「こう見えても何も、そうとしか見えませんよ」


 佐藤は笑う凜の言葉に、初見からただ者でない雰囲気を出していた男への納得と確信をする。


「……凛、止めてくれ」


 恥ずかしそうにそっぽを向く巨漢だが、その表情は満更でもなさそうだ。


「……そないな葵はんにお願いがあるんやけど、明日あの男達と昼食を一緒に食べなあかんの、なんかされそうになったら助けてくれまへんか?」


 少女がした笑顔での唐突な告白に、三人の目が点になる。


「……はぁ~やっぱり交換条件だったのね。自分でやったことだし何も言わないから聞かなかったけど、あんまり危ないことしちゃダメよ」


「はい、かんになぁ凜はん、次からはちゃんと気ぃつけます」


 しっとりと反省の意を示す紗命に、真面目な顔をした葵獅も口を開く。


「……紗命、俺は構わんが、凜の言う通りだ。自分の事はもっと大切にしろ」


「おおきになぁ、身に染みましたわぁ。……」


 ぺこりと頭を下げ、……でも、と続ける。



「何の策ものうて、敵の懐に入ったのちゃうのですよ?」



「見とって下さい」と言い、彼女は紙コップの中の水に意識を集中させる。


 すると、ふわふわと水が空中に浮き球体を形どった。


「どうやらうち、他の人より魔法とやらが使えるみたいなんよぉ」


 紗命は水の形を様々な動物に変えながら辺りを見回す。


 未だ諦めきれない人たちが、マッチほどの火や水滴を必死に操っている光景が見える。その中には例の輩もいる。


「は~、やっぱり間近で見ると凄いですねぇ」


 周りとは明らかにレベルの違う技術に三人が目を奪われる。


「皆はんはまだ試してへんのですか?」


「試すと言われても、魔法とかよく分かりませんし、何よりやり方が分からないから」


 佐藤の返答に葵獅と凜が同時にうなずく。

 彼らはそういったファンタジーに疎く、凄いとは思うがそもそも自分ができるとは思っていなかった。故に試してもいない。


「ん~、使うてみたいっ、て思うと何か分かったで?」


 漫画に出てくる天才の様な助言に三人が苦笑する。


「そんな簡単に……ん?」「……っ」「あら?」


 彼等はほぼ同時に、自分の身体の中を流れる違和感を感じた。



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