日課の8キロ走

第660話 トレーニング

「そう言えば……誠ちゃんは?」 


 いつも一番にアクションを起こす誠がいないことに気づいてシャムは首をひねった。


「カウラさんも……」 


 アンは驚いたようにかなめを見る。かなめは特に気にしていないというように首筋に刺さっていたジャックを抜いて端末の作業を静かに終えている。その不気味な沈黙の理由を知りたい好奇心に駆られながらシャムもまた静かに立ち上がった。


 突然詰め所の扉が開く。


「あ!8キロ走……準備ですね」 


 出てきたのは誠だった。そう言うとそのまま自分の席まで駆け寄りそのまま端末を終了する。


「誠ちゃん」 


「はい?」 


 シャムの言葉にしばらく停止する誠の顔。シャムはそれとなくかなめを見る。それでも何も分からないのか不思議そうにシャムを見つめてくる誠。


「誠ちゃん。カウラは?」 


「ベルガーさん?」 


 これまた良く分からないと言う顔の誠。かなめはシャムの言葉を聞いていないようで手元の冊子を覗き込んでいる。


「だから!」 


「シャム!うるせー!」 


 大声になっていたシャムをランが怒鳴りつける。なんだか良く分からないと言う表情のまま誠は部屋を出て行くランに続いて行った。


「西園寺さんはご存知ですか?」 


 アンがかなめに声をかけた。シャムはかなめは誠のことが好きで同じく誠が気になるカウラを目の敵にしていると思っていた。だがアンの無謀とも言える声掛けにかなめはめんどくさそうに顔を上げて首をひねっている。


「なんでアタシが知ってなきゃならねえんだ?アタシはアイツの保護者か?」 


「でも……神前先輩は……」 


「ああ、アイツはシミュレーションの結果の修正をしてたんだ。それとカウラは今は隊長室」 


 そう言うとかなめはゆっくりと立ち上がる。かなめの反応をじっと観察していたロナルドはじめ第四小隊の面々はそれを確認するとそそくさと立ち上がりそのまま部屋を出て行った。


「隊長室?またかなめちゃんが何かしたから怒られてるの?」 


「だからなんでアタシとアイツをくっつけて考えるんだよ。あれだ……お姉さんの復帰のことでいろいろとな……まあちっこい姐御はもう案を出してるらしいからその説明だろ」 


 そう言うとそのままランの部隊長席の隣の出口へと進んでいくかなめ。


「いい加減着替えねえとちっこいのが怒るぞ」 


 かなめに指摘されてまたランの怒りを買うと思ったシャムとアンはそのまま小走りに部屋を飛び出していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る