第326話 人選
「お待たせしました」
誠はそう言ってかえで達に作り笑顔を向けるが二人の視線は誠の後ろに向けられていた。
「彼女はなんだ?」
驚いて誠は振り返る。そこには好奇心に負けて誠をつけてきたグレゴリウス16世にまたがったシャムがいた。
「かえでちゃん初めまして!」
そう言うとシャムはまるで馬から降りる騎士のように大地に降り立った。シャムはそのままかえで達の周りを好奇心の目で二人を見ながら一周する。
「へーこの人がかえでちゃんなんだ。そしてとなりが
しばらくかえでと渡辺は何が起きたかわからないというように立ち続けていた。誠は仕方なくシャムを紹介しようと口を開く。
「あの、この人がナンバルゲニア・シャム……!」
誠がシャムを紹介しようとした瞬間、かえでの手がシャムの胸元に伸びた。そしてさも当然と言うように小さなシャムの胸を軽くなでるようにさすった。
「あ!」
突然のことにシャムは呆然とする。誠もまた何もできずにかえでの行動を見守っていた。
「うん、実に良い。それでは神前曹長、案内を頼む」
かえではそう言うと何事も無かったかのように誠に目を移す。シャムはと言えばしばらく呆然と誠を見上げていたが、すぐに喜びにあふれた表情を浮かべた。
「これよ!これがかえでちゃんなのよ!やっぱり思ったとおり!おっぱいマニアだね!」
誠の理解の範疇を超えた領域でシャムは喜びの叫びをあげる。一方、誠はこの珍客が必ず騒動を起こすだろうと察して渋い顔をしてそのまま正面玄関から隊舎に入った。
幸運なことに運行部の女性隊員は廊下に居なかった。
「誠ちゃん、荷物くらい持ってあげようよ」
渡辺の手から手荷物を預かろうとするシャムの声に気がついたように誠はかえでを見つめた。
「ああ、頼めるか?」
そう言ってかえでから渡されたかばんはその体積の割りに重たく感じられた。
「じゃあ、隊長室は二階ですから」
誠はそう言うとそのまま階段を上る。かえでも渡辺も相変わらず黙って誠のあとに続いた。シャムはニヤニヤしながらその後ろを行く。
「ここが更衣室です……」
かえでは特に気にならないというような顔をして黙っている。誠もとりあえず彼女と同じように黙っていようと思いながら廊下を右に折れた。
「ここが茜様の執務室か」
かえでが口を開いたのは、彼女の従姉妹である嵯峨茜警視正が常駐している遼州同盟法術犯罪特捜本部の部屋の前だった。
「挨拶していきますか?」
こわごわ尋ねる誠にかえでは首を振りそのまま歩き出す。誠はそのまま彼女の前に出て隣のセキュリティーシステムを常備したコンピュータルームを指差すが、かえではまったく関心も無いというようにそのまま嵯峨がいる隊長室の前に立った。
そのまま誠を無視してかえでは隊長室のドアをノックする。
「おう、いいぞ」
嵯峨の声を聞くとかえでと渡辺は当然のようにドアを開けて入った。
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