第310話 読み切っていた男
『なに難しい顔をしてるんだ?』
かなめが口元だけ見えるサイボーグ用ヘルメットの下で笑っている。
「西園寺さんはいつごろ気づいたんですか?隊長がこの混乱の発生を知っていたってこと」
『まあ叔父貴が胡州の殿上会に出るなんて言い出したころからはある程度何かがあるとは思ってたな。まあうちは『近藤事件』については実績がある
から。出口の近藤を叩けば当然入り口のカントを叩くってのは当然だろ?これで本当の意味で『近藤事件』は解決するわけだ、アタシ等にとってはな』
闇の中に吸い込まれそうになるのを感じながらかなめの言葉をかみ締めるようにして誠は前方を見つめていた。
『運がいいというべきかそれとも何かの意図があるのか、それは私も分からないが自分の手でけりをつけるのは悪くないな』
先頭を行くカウラの言葉に誠もうなづいた。
『おい、神前!アタシだとなんだか腑に落ちない顔してカウラだと納得か?ひでえ奴だなオメエは』
「そんなつもりは無いですよ!西園寺さんの言うことももっともだと思いますよ!」
『西園寺さんの言うこと『も』?やっぱりアタシはついでかよ……!』
かなめが急に表情を変える。そして誠の全周囲モニターに飛翔するかなめの機体の姿が飛び込んできた。
『敵機か?』
闇は瞬時に火に覆われた。パルスエンジンの衝撃波を利用してミサイルを誘爆させる防衛機構であるリアクティブパルスシステムで未確認機から発射された誘導ミサイルが炸裂していた。
『各機!状況を報告』
落ち着いたカウラの言葉に火に包まれた誠は正気を取り戻した。
「ブラボー・スリー……異常なし!」
『ブラボー・ツーオールグリーン!ってレーダーに機影が無いってことは車両か……それとも自爆覚悟の防御陣地か?』
ライフルを構えながら先頭に着地してかなめは周囲を見回す。誠も全周囲モニターに映る小さな熱源が動き回っている有様である。小型の車両の荷台に不釣合いに大きな荷物見える。それがおそらく小型地対地ミサイルであることはすぐに分かった。
『まずいぞこれは反政府軍の時間稼ぎだ!ブラボー・ツー、先頭を頼む!』
カウラはそう言うと後詰に回った。
『はなからアタシに任せりゃ良かったんだ。とっとと片付けて酒でも飲もうや』
そう言うとかなめはパルスエンジンの出力を上げていく。誠も遅れまいと機体を軽く浮かせた状態でかなめ機の後ろを疾走した。
悪寒がした。誠はレーダーに目をやった。映ったのは小さな反応ではなかった。一瞬では数を把握できない明らかにアサルト・モジュールと分かる機影が低高度で接近を続けている。
「敵影多数!こちらに!」
『馬鹿野郎!多数なんざ見りゃわかる!数言え!』
わざとらしく誠を罵るとかなめは一気に加速をかける。
『誠ちゃん。非破壊兵器発射地点を転送するからすぐに向かって!』
「そんな!西園寺さんが突撃して……」
『神前曹長!これは命令です!すぐに向かいなさい!』
厳しい表情のアイシャに誠は何も言えずに転送された地図を見て南西へと急いだ。
『大丈夫だ神前。私もいるんだ!』
カウラはそう言いながら誠機を守るように進軍する。視界から消えたかなめの機体と敵の部隊が接触したことがレーダーで分かった。
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