休日の終わりに
第183話 オタク同志
激痛が額に走り、誠は目を覚ました。車外はすでに闇に包まれていた。
「よう、起きたか」
かなめの顔と握りこぶしが誠の顔の前にあった。だるさが消えていた誠はすぐに叫ぶ。
「いきなり殴らないでくださいよ」
額を押さえながら誠は起き上がる。心配そうに見つめているカウラと目が合ってうつむいてしまう。
「起きて大丈夫?」
アイシャはそう言うとポットに入れたコーヒーを紙コップに注ぐと誠に差し出した。
「どうにか……かなり楽になりました」
「一人で歩けるか?」
心配そうにカウラがそう語りかける。誠はとりあえず立ち上がってみた。以前のような立ちくらみは無い。力が戻ったと言うように左手を握っては開く。
「顔色もよろしいんでなくって?」
そう言って茜は四人を見守っている。彼女の声で改めて周りを見回す。すっかり日は暮れて深夜の様相である。茜の前の席にはカラオケを続けて歌い疲れたサラとパーラが寝息を立てていた。
「すいません!荷物降ろすんで、降りてくれませんか!」
運転席の脇に立っていたキムが叫ぶ。前の席の整備班員やブリッジクルーが背中に疲れを見せながら立ち上がっているのが見える。
「とりあえず行きましょ」
そう言うとアイシャが通路を歩き出す。カウラとかなめが続き、アイシャはとりあえず誠が普通に歩くことが出来るのを確認すると彼の後に続いた。
昨日出発した隊の駐車場に誠達は降り立った。ハンガーに明かりがともっているのはいつものこと。そしてこちらもいつものように電気がついていたのは嵯峨のいる部隊長室だった。
「西園寺さん。何が入っているんですか?このバッグ」
重そうに島田は荷物を取り出す。頭を掻きながらかなめはそれを受け取った。
「ああ、それにはちょっと物騒な物が入っているからな」
やはり予想通り銃器でも入っていると言うようににんまりと笑うかなめを困ったように島田は見上げる。
「止してくださいよ、警察の検問とかがあったら止められて説教されますよ」
島田を無視して自分のバッグとその後ろの誠のバッグを取り出した。
「そう言えば、あのおっぱいおばけはどうした?」
荷物を誠に押し付けるとかなめはそう言った。
「その言い方酷いんじゃないですか?レベッカさんならさっさと降りて西の案内でハンガーに向かいましたよ」
島田の言葉を聴くとかなめは情けなさそうな顔をして誠を見つめた。
「何か言いたいんですか?」
誠の顔をかなめがまじまじと見る。その目はいつもと同じタレ目である。
「別に。それじゃあ叔父貴の面でも拝みに行くか」
そう言うとかなめは荷物を持たせた誠をつれて歩き始めた。茜、カウラ、アイシャもその後に続いてハンガーを目指す。
ハンガーに入って一番手前。誠の専用機の前に立っているレベッカと西を見つけてかなめは四人に静かにするように合図した。
「本当に萌え萌えなんですね」
「そうですね、あのオタ曹長自らのデザインですから。それにしてもまあ有名になっちゃって大変ですよ。演習場に行く度にカメラ小僧を追っ払うのが一苦労で」
「でもかわいいから仕方ないですね」
西はレベッカのその言葉に驚いたように視線を移した。かなめを先頭に誠達は彼等の死角を選んで進みそのままアサルト・モジュール移送用トレーラの影まで進む。まったく自分達の存在を気づいてない二人を見て得意げな表情にカウラが大きくため息をついた。よく見ようとして頭を上げようとした誠を押さえつけてかなめは静かに西達を見つめている。
「そうですか?これは、一応兵器な訳で不謹慎ですよまったく。なんですか?これ一応税金で塗装とかしてるんですよ」
「でもここの予算の七割は嵯峨隊長の資産でまかなわれているって……」
「あの人は御領主様ですから。その資金の出所は私有しているコロニーの住人に対する代理納税の手数料ですよ。つまりそれも税金なわけです」
西が胡州の平民の出ということを思い出してかなめは大きくうなづいている。
「結局全部隊長の趣味。まああの人が何を考えているかなんてわかりませんがね」
「そりゃあアタシも同意見だ」
かなめの一言に驚いて振り向く西とレベッカの姿が極めて滑稽に見えた。西はかなめの隣に誠やカウラ、アイシャと茜まで居ることに気づいておびえたような笑みを浮かべている。
「聞いてました?」
西はまるでいたずらを見つかった子供のように腰を引いていつでも逃げ出せるように構える。
「まあな。それにしてもこうして改めて見ると……」
見上げ眺め、時に中腰になり。かなめが誠の機体を見つめ続けている。誠達はそのままかなめの方に近づいていく。
「おい」
振り向いたかなめがいかにも情けなさそうな視線を誠に送ってくる。
「そんな目で見ないでくださいよ」
誠は思わずそう言っていた。いつものこととは言えこう言う顔でかなめに見つめられると誠も情けなくなってきた。
「これが成人向けゲームのキャラクターなのですわよね?」
何か汚物でも見るような視線で茜が誠を見つめる。そしてじっと誠を見つめた後目を逸らしたのは茜の方だった。
「茜ちゃん。エロゲは文化よ!」
アイシャはそんな西に堂々と胸を張って答える。その前にいつの間にかレベッカが立っていた。彼女はアイシャの手を取り、まるで人生の師にでもあったように濡れた瞳でアイシャを見つめた。
「そうなんですよね!かわいいは正義です!」
その反応に一同は金縛りにかかった。
「おい、こいつも腐ってるのか?」
「みたいだな」
「いやらしいですわ」
かなめ、カウラ、茜は黙って二人の邂逅(かいこう)を見つめていた。
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