第132話 メンバー選出

 嵯峨が去るとかなめはいかにもめんどくさそうに振り上げようとしたこぶしを下した。


「なんだか腰折られたな」 


 喧嘩のタイミングを失ったかなめが、ぼんやりと天井を見つめている。一回、誠がその髪型を『変形おかっぱ』と呼んで張り倒された、耳元の髪が襟元まで届くのに後ろは少し刈り上げているスタイルの黒い髪がなびく。


「水着の買い物に行くのはアタシとカウラ、サラとパーラ。それに誠でいいんだな?」 


「かなめちゃん、わざと私をハブったでしょ」 


 アイシャがしなだれかかるようにかなめに寄りかかる。かなめはめんどくさそうにそれを振り払って腕組みをする。そしていかにも彼女らしい下卑た笑みでアイシャの胸のあたりを見つめた後ため息をついた。


「なによ!そんな女は胸って言いたいわけ?胸にばかり栄養が行って我慢する脳みそがぬけちゃった人にそんな態度とられたくないわよ!」


「何のことかなあ?」 


 アイシャのあからさますぎる挑発にはさすがのかなめも乗らなかった。そのかなめの落ち着いた態度に食いつかれることを予期していたアイシャは拍子抜けしたようにため息をついた。


「正人も来る?」 


 赤い髪のサラがいつの間にか戻ってきた島田に声をかける。島田はいつも通りかなめの様子を見て機嫌が悪くないのを確認してからサラに目をやった。


「まあ俺が行くしかないだろうな。神前の趣味だとまた『痛い』って話になるだろうから。それに一応俺には去年もサラのを選んだ実績があるからな」


『けっ!』


 かなめとアイシャが島田ののろけ話に思い切り舌打ちをする。さすがに自分の口が滑ったのを悟って島田は苦笑いを浮かべた。


 島田の言う通り誠のアサルト・モジュールの機体に施されたマーキングは巷ではちょっとした話題だった。特にアダルト・ゲームマニアにはその塗装の画像が拡散されていてSNSの話題ランキングの上位に挙がったこともある。ライトグレーのステルス塗装の上にはエロゲーム『ラブラブ魔女っ子シンディー』のエミリアちゃんが全身に何体となく描かれていた。それでも誠も正直女性の水着のチョイスに口を出すような機会には恵まれたことが無いので島田がついてきてくれるのは心強く感じていた。


「それじゃあ……アタシとカウラ、サラとパーラ、誠に島田。そしておまけでアイシャか」


 おまけ扱いされたアイシャがかなめを睨み付けるが、かなめはどこ吹く風でアイシャの視線を器用に避けていた。 


「シャムは?アタシは仲間に入れてくれないの!」 


 一人黙々とリアナが切ったスイカを独占して食べていたシャムが叫んだ。その隙をついてリアナがシャムがすべて食べようとしているスイカを取り上げた。


「はい、みんな一切れなんだから。そうよ、シャムちゃんも仲間に入れてあげなさいよ。かわいそうでしょ?」


 かなめもリアナの独特な柔らかい言葉に静かに頷くしかなかった。そしてシャムを一瞥し、両手の指を折りながら数を数え、そしてそのまま周りの面々を見回した。


「そうだな……お前はトランクのに中でも入るか?パーラの四駆の三列目のシートは三人乗りなんだけどそのまま三人乗ると狭いんだわ」 


 かなめは冷ややかにそう言った。かなめの取り付く島もない冷たい視線がシャムに向かうと今にも泣きそうな表情のシャムが出来上がった。


「かなめ、いい加減にしなさいよ。大丈夫よ、体の大きい神前君とアイシャとカウラが二列目で三列目にサラと島田君と一緒に座れば大丈夫よ」 


 世話好きなパーラの一言に安心するシャム。うれしそうにパーラの手を取ると上下に振って喜んで見せるのがシャム流の喜びの表現だった。そんな光景を見ていると誠達もなんとなく心が温かくなる。


「健ちゃん、私達も行きましょ!」


 スイカを配り終わったリアナが思いついたように彼女について回る夫に声をかけた。


『お姉さんは来ないでください!』


 リアナの一声に女性陣が一斉に叫ぶ。


「なんで……」


「はいはい、リアナさん帰りましょうね」


 泣きそうな表情のリアナに女性陣の嫉妬が成せる技と気づいた健一はそのまま手を引いて部屋を出て行った。


「まあ、今回の買い物はアタシが主役だからな!アタシが!」 


 そう言うとかなめは立ち上がって、モデルの真似事を始めた。確かにスタイルは部隊でもマリアとそのトップを競うほどである。誠と島田の視線がかなめに注がれるのもいつものことだった。当然島田は隣のサラにわき腹をつつかれ、誠はカウラににらみつけられる。


「それじゃあとりあえず終業後、駐車場に集合ってことで」 


 かなめはそう言うと颯爽と部屋を出て行く。いつもこういう時はと理由をつけてタバコを吸いに行くかなめを見て、カウラは諦めたように自分の席に戻った。


「失敗したかなあ」 


 アイシャは少しばかり展開を読み違えたかと言うように誠に笑顔を向けた後、島田から受け取ったメモ帳を丸めてそれで手を叩きながら実働部隊の詰め所を後にした。


「煽ったのは自分なのに……ねえ」 


 そう言い残すと島田について出て行く赤毛のサラ。パーラも疲れた表情でそれに続く。


「仕事が絡まないと元気なんだな」 


 カウラはつい誠が提出した書類から目を離してポツリとそうつぶやいていた。

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