第四章 通過儀礼としての事件
第25話 饗宴の果てに……
それから誠の『歓迎会』と称する5日連続の饗宴が、仕事が終わるたびに開かれた。
2日目はマリア・シュバーキナ大尉率いる警備部のウォッカ攻めだった。隊員の多くは外惑星連邦の軍警察特殊部隊出身の猛者ばかり、その異常なピッチの飲み方に誠の精神が崩壊するのに、30分とかからなかった。
次の日は許明華大佐の技術部によるイッキ強要である。次の日、誠が気がついたときには、下士官寮の自分の部屋に裸で寝かされていた。
そして最後が酷かった。誠は運用艦『高雄』の艦長代理のアイシャ・クラウゼ大尉による、酒を置いたまま続く、オタク知識トークが展開された。誠はそれに付き合って徹夜した自分を褒めてあげたいと思った。そしていつの間にか夜中には誠とアイシャを置き去りにして消えていたブリッジクルー達を恨みながら、翌日の朝、誠はハンガー前まで来た。
「眠い……」
誠は自分の機体の05式を見ながら大きくあくびをした。
まだ実戦どころか訓練さえ経験していない誠の機体は、オリーブドラブの一般色のありふれた東和軍の機体と同じ色だった。
「いつかは俺も……」
そう言いながら特に目立つ漆黒のパーソナルカラーの隊長、嵯峨惟基の四式に目をやる。『ダークナイト』の二つ名を持つエースの機体。自然と誠の心に燃える火が灯った。
じっとその期待を眺めている誠に向けて突っ走ってくる人影を見つけた。
「出たな!怪人!」
よく見るとそれはシャムだった。革ジャンにジーパンというまるで変身前のヒーローのような恰好をしている。シャムは叫び声とともに、手刀を打ち込んでくる。
「なんですか!いきなり!」
誠は彼女の鋭い踏み込みに、誠は反撃も出来ずにそう叫ぶのが精いっぱいだった。周りの整備班員は見慣れた光景だと言うように、誠達を見向きもしない。
「アタシの必殺の一撃。良く避けたわね」
「だから何なんですか?」
ファイティングポーズを取りながら、シャムはいい顔で誠をにらみつける。誠はただ何が起きたのかわ分からないでいた。
「じゃあ、これはどうだ!必殺!切りもみシュート!」
少し間合いを取ったシャムが勢いをつけて走ってきての飛び蹴りである。あまりの勢いに今度は誠は避けることもできずに、顔面でそれを受け止めった。
誠はぶっ飛ばされてハンガーにしたたか頭をぶつけた。騒ぎを聞きつけて整備員と遅れて到着したカウラが駆けつけて来るのが見えたが、誠はただぼんやりと勝利を気取るシャムの後姿を見るばかりだった。
「大丈夫か!神前少尉!」
カウラの悲しげな叫びが心地よく聞こえるのを感じながら誠は意識を失っていった。
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