マシーンになれ!
カップ麺を食べ終え、食休みもせずに次の作業を進める。
ノっているときは体力が続く限り休まず進めたい。今は楽しさが気力を押し上げている。ペーパーがけに没頭する、没頭する、没頭する。
……いやいや、こっから先の作業はBGMくらいないとダメでしょ。いきなり音楽かけるのもアレだし。まずは宗則に探りのジャブを打つ。
「宗則っていつもこういう作業って一人でやってる?」
「いや、割とこれ系はやらないかなー」
たしかにCBも見た目気にしてはいなさそうだもんね。みんなそれぞれバイトくらいはしてるし貧乏って訳じゃないけど、私たち学生ライダーが美観に関わる辺りをどうしても後回しにしちゃうのはしょうがないよね。GPZもウインカーがカウルごとやられなければそのまま乗ってたな、きっと。
……エンジン右側の回転痕は何とかしたいけどね。あの痕は今後、目につくたびに絶対に私のこころをえぐってくると思うよ。
ヤスリがけをしながら私からの突然の質問に「なんで?」と宗則。
「ほら、こういう作業ってさ精神的にくるものがあるでしょ? 何かコツとかないのかなぁと思って」と質問で返す。
「あー、わかるわ。作業用BGMってのがネットとかでよく出てるけど、最後にはラジオに行きつくとはよく聞く」いや、私最後までしっかり道のり歩みたいけど、と思った。
「あとはマシーンかな」と宗則。
「マシーン?」と聞き返す。
BGMもいいんだけど、ノリノリで手を動かしていると案外削りすぎちゃうことが多いらしく、こういう単調な繰り返し作業は、感情を捨ててひたすら手を同じ力・同じ角度で動かすことにすべての意識を集中、いやむしろ意識を捨てて、そういうマシーンになれという教えが太古からあるとかあるとか。包丁の研ぎ師がネットかなんかでそういう事を言っていたと。
「……なんか音楽かけていい?」と私。
「耳障りじゃなければ」と宗則。
「ワンオクとか」
「普通の女子っぽい」
「普通の女子だって!」
そんなやりとりの後、結局スマホのアプリでラジオを流す方向で落ち着いた。
アッパーカウルはひび割れの終わりにドリルで丸穴を開けてFRPで裏打ち後にパテ埋め、純正のウインカー取付位置とインナーカウル固定用の穴もFRPで裏打ちしてパテで穴埋め。今はそのパテを均一にするヤスリがけ。
サイドカウルとテールカウルは割れがないけど、全体に単色の黒に塗装する計画の為、純正ステッカーをとりあえず剥がして、残った糊を落とす作業。
今日のメインはこの二つを軸に、お互い飽きたら交代しながらやっている感じ。
ガソリンタンクも塗装予定だけど、剥離剤で塗装を剥がしたら、すぐ下地処理にスプレーでサーフェイサー(肌のシミや傷を隠すコンシーラーみたいな?)ってのを拭かないと錆が発生してしまうので、ユキの家で作業スペースを借りる算段をつけてからの作業になる。
剥離作業は予習で読んだ雑誌にも書いてあったんだけど、かなり楽しいらしい。
昼食後ずっと作業に没頭したおかげでなかなかの進行具合だと思う。FRPの裏打ちは樹脂の表面が少しべたつくままだけど、どうせ裏側だから気にならないし気にしない。
ウインカー取り付け部の穴は、少し段差はできているけどまあまあの出来。宗則先生のお許しが出るまで薄付パテをつけては削る、つけては削るの繰り返し。
アッパーカウルの表面処理でほとほと疲れた私は、サイドカウルとテールカウルは純正のシールを剥がしただけでいいのでは? と自分に言い聞かせた。
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