第3話⑨ 罪悪感はお互いに
「なるほどねー、そういうつながりだったんだー」
滝山が「ほえー」っと感心したような声を上げた。
俺と桐生が小学校から一緒だったという話に始まり、恭也や司もその頃から知っていること、最近は桐生の実家のカフェでバイトしていること、そこにエリスがホームステイとしてやってきたこと、それを機に桐生ともまたちらほら会話するようになったこと……つまり、あれこれ質問を受けているうちにほとんど全部話すことになってしまった。
「でも柏崎君がちーちゃんと幼なじみだったなんて、まったく気づかなかったよー。クラスでも全然絡みないし」
「ま、どう見てもキャラ違うもんね。柏崎ってぶっちゃけ女に縁なさそうだと思ってたし」
「…………」
グサリとクリティカルに刺さった。この程度は覚悟していたはずなのに、実際にその通りなのに、いざ口に出されるとやはりショックだ。
「
滝山のまったくフォローになっていないフォローに、俺はさらにザクザクとダメージを受ける。嫌すぎるコンボだ。二人とも大して悪意がなさそうなのが、余計に傷口を抉る。
ただ結局、彼女たちから近寄るなとか身の程知らずとか言われることはついぞなかった。もちろん、歓迎も全然してくれていないだろうが。視線でわかる。
鈴城が続けた。
「それで?」
「……何がだよ」
指示語だけで話すな。それだけでわかるわけねえだろ。パリピ女はこういうところが嫌なんだ。『普通のコミュ力あれば伝わるでしょ? 察しろ』的な。少しはエリスを見習ってくれ。
「今千秋と話してるあの背の高い子」
鈴城はヤンキーみたいに首を後方へしゃくる。その視線の先では、いまだに言い争い(?)らしきをしている真岡たちがいた。てか、本当になにやってんだあいつら……。それに、毒舌スキルがデフォルト装備の真岡はともかく、桐生が何やら言い返しているのは本当に珍しい。俺と恭也と司の男子トリオは別として、彼女が……特に同性とやり合っているところはまったくといっていいほど見たことがない。
俺が意外な光景に目を丸くしていると、鈴城がとんでもないことを言い放った。
「付き合ってるの?」
「え?」
あまりにもさらりとした言い方に、一瞬理解が及ばなかった。
付き合ってる? 誰と誰が?
「彼女なの? あの真岡って子」
呆けている俺に、鈴城は重ねて問い質してくる。
「……ま、待てって。そんなわけないだろ。違うって」
ようやく我に返った俺が即座に否定すると、今度は滝山がキョトンと首を傾げた。
「何でそんなわけないのー? 文化祭を二人で回ってたらフツーそう思うじゃん?」
「いや、だからって……」
それはあんたらリア充どもの価値観であって、俺や真岡みたいな面倒くさいのはそんな短絡的な話にはならないんだよ。
……なんて説明はできない。したところで、この手の連中に理解してもらえるとは思えない。『何それ暗―い、意味わかんなーい』とか、ドン引きされて終いである。
「真岡とは、さっき話したバイト先でたまたま知り合っただけだ。今日も、ちょっと頼まれ事があっただけで」
結局、当たり障りのない答えを返す。今日に関していえば、真岡にしては違和感のある言動が目立つが、それもあくまで取材の一環であって深い意味はない。そのはずだ。
だが鈴城はざっくりこうまとめた。
「ふーん、つまり仲の良い友達ってわけね。今のところは」
「…………」
いちいち引っかかる言い方しやがる……。というか、友達ってのはさっき本人に否定されたばっかりなんだけど……。
俺がもやもやと湿度の高い靄のような、名状し難いクソデカ感情を囚われていると、話が済んだのか、真岡と桐生がこちらに戻ってくる。二人とも真顔だった。和やかな雰囲気はまるでない。
「待たせたな、柏崎」
「お、おう……。大丈夫か? 何か不穏な感じだったけど」
「……ちょっとな」
「……?」
真岡はそれきり口を閉ざす。ああ、これはこれ以上踏み込んじゃいけないやつか。まあ、基本的に相性悪そうだもんなこいつら……。
俺に地雷原でブレイクダンスを踊る趣味はない。
ない、のだが……。
「その……桐生も平気か?」
「う、うん。大丈夫、ありがとう」
明らかに落ち込んでいる様子の桐生を見てしまうと、さすがに声をかけざるを得なかった。
「おい真岡。おまえホント桐生に……」
何したんだよ、と言いかける前に、
「ち、違うの、悠君! 真岡さんが悪いわけじゃないから!」
桐生が先に否定してきた。
「そ、そうなのか?」
「え、ええ。ちょっと自分の至らなさに自己嫌……反省してただけだから。気にしないで」
「お、おう……?」
本当、この短時間に一体何があったんだよ……?
だが、その疑問が氷解することはなく。
「柏崎」
「え?」
「もう行こう」
真岡はいきなり俺の腕を強く引っぱった。
「ちょ!? お、おい真岡!?」
俺の抵抗にも構わず、真岡は俺を引きずるようにずんずんと歩き出す。背中越しで彼女の表情を窺うことはできない。代わりに、
「悠君、また後でね」
振り返ると、どこか物悲しげな微笑を湛えた桐生が小さく手を振っていた。
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